とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー戦術クロニクル 2

 本書は「サッカー戦術クロニクル」の続編である。前書では「トータルフットボールとは何か?」という副題のとおり、トータルフットボールを主題にオランダやそのルーツであるハンガリーアイルランドのサッカーなどを追い、現代のサッカーにいかに受け継がれているのかをテーマとしていた。
 対して本書は、トータルフットボール以外の、今や消滅しつつあると考えられている戦術、具体的にはカウンターアタックやマンツーマン、ロングボール戦術等を取り上げ、その盛衰と現代サッカーとの関係や影響について紹介している。
 とは本書の「はじめに」に書かれていることだが、実際にはこうした内容で前半6章が費やされ、後半5章はプレミア4強+バルセロナの戦術とジェノアの実験的挑戦について語り、最後にセットプレーの変遷について記述している。前書とセットで、現代サッカーをめぐる戦術は一応網羅されることになる。もっともジェノアのように新たな挑戦的取組があり、またボールなどの用具の進化・変化やルール改正等もあるかもしれず、戦術論はいつまでも尽きることがない。
 現代サッカーにつながるさまざまなサッカー戦術が、フォーメーションや状況に応じた選手の動きなどを例に、具体的にわかりやすく解説されており、よく理解できる。実際には局面ごとに同じ状況は二度とないので、これはどういう戦術だとすぐには見えてこないことも多いが、こうした知識を持っているといないのではサッカーの見方は大きく違ってくる。とにかくわかりやすく面白い。
 特に、ベッケンバウアーのいた70年代西ドイツをもう一つのトータルフットボールとする見方やオシム戦術を古くて新しいマンツーマンベースのトータルフットボールだという説明はなるほどと興味深く読んだ。今後さらに新しい戦術、目を見張る戦いが見られることだろう。その進化・変化がまたサッカー観戦の醍醐味だ。

サッカー戦術クロニクルII

サッカー戦術クロニクルII

●スペインとバルセロナは、高い技術とパスワークでハードワークを「過労」に追い込んでしまった。・・・中盤でのつぶしあいの時期は過ぎ、ボールを持っている側の優位が回復された。それに伴って、低い位置でのプレッシングとカウンターアタックを狙う展開、徹底したボールポゼッションから針の穴を通すようなパスでゴールを狙う展開、その二極分化へ向かうだろう。(P7)
●70年代の西ドイツの守備はマンツーマンをベースにしていた。・・・ただ、西ドイツはベッケンバウアーという破格のリベロを有していた。そこから独自のシステムを発展させ、オランダとは違うトータルフットボールを体現することになる。だが、西ドイツのトータルフットボールはオランダと違って継承者が現れなかった。オランダのサッカーが、”そこ”から未来へつながっていったのに対して、西ドイツのサッカーは過去からつながって”そこ”が終点だったといえるかもしれない。(P69)
オシムの戦法は新しかった。いや、古すぎて新しくなってしまったのだ。もちろん、21世紀に合うようにアレンジしているし、そのためのトレーニングもしているが、戦術の基本は30年も前のマンマークベースのトータルフットボールという、すっかり埃をかぶって省みられなかった手法だった。(P103)
●このサッカーは正しいのか。このチームにとって、ファンにとって、国民にとって、「正しい」と思える根っこがあるのか。それとも損得勘定だけの根無し草なのか。知を愛さないチームの戦術には、残念ながら知性も品性も欠けてしまう。哲学という背骨を欠いた、便利なだけの戦術など、しょせんは長続きしないものだ。(P252)