とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ブラックペアン1988

 「チーム・バチスタの栄光」を遡ること20年。高階病院長が東城大学病院に赴任してきた時代を描く。
 当時、東城大学総合外科学教室を率いる佐伯教授に対して、帝華大学から送り込まれた高階は、熟練した技術を信奉し医療を施す佐伯外来に対して、外科医なら誰でも利用することができる新技術の普及・採用を主張する。そこに外科医師団のはぐれ者、渡海が立ちはだかる。
 医療技術の進歩と普及、患者と医療など、いくつかの問題を描き出しつつ、緊張の中、難解手術が執刀される。いくつかの山を越えて、高階と佐伯の対立も解消し、大団円に向かいつつあると思われた最終局面で、渡海がとんでもない時限爆弾のスイッチを押す。そこにブラックペアンが立ち上がる。
 「チーム・バチスタ」の田口や「ジェネラル・ルージュ」の速水が医学生として登場するのも楽しみ。猫田、藤原看護士などのサブキャラも光っている。花房看護士の恋愛の行く末にも興味が湧く。
 これまでの作品のような犯罪や社会悪があるわけではない。外科医療の現場では日常的に直面するのだろう医療問題を正面に据えながら、非常に面白いミステリーに仕上がっている。ある意味地味ではあるが、これまでの作品の中では一番好きかもしれない。

ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)

ブラックペアン1988(上) (講談社文庫)

●手段手技が優れていても、それだけではダメだ。患者を治すのは医師の技術ではない。患者自身が自分の身体を治していくのだ。医者はそのお手伝いをするだけ。そのこを決して忘れてはならない。(上P123)
●告知は、後で患者や家族にごちゃごちゃ言われないで済むように、真実をつきつけ、覚悟を決めさせる踏み絵だ。踏めなければ、手術を受ける資格はない。手術を受けるのは俺ではない。患者自身なんだ。(上P203)
●弱い人間に対していい加減になれるのは、強くて優しい人にしかできない気がします。(下P47)