とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

シャンパンサッカーとゲルマン魂 W史上最高のゲームかもしれない

 82年スペイン大会。フランスvs西ドイツの準決勝は、プラティニ率いるシャンパンサッカーのフランスに西ドイツが延長で2点差を追いついた激闘のゲームとして知られる。これまでプラティニの姿を90分フルで見たのはトヨタカップでしかなかったが、こうした見てみると、ペレ、クライフ、ベッケンバウアーと並び、フランスの将軍として今に伝えられる理由がよくわかる。確かにフランスはプラティニのチームであり、そしてこの時代において早くも現代サッカーを展開していた。
 片や西ドイツはフォーメーションをきちんと守り、ドリブルで駆け上がるサッカーだ。だが立ち上がりは西ドイツ・ペースで始まる。4分、ブリーゲルのドリブルにドレムラーがシュート。対するフランスもシャンパンサッカーの中盤4人組の一人、ジレスがドリブルからループシュートを放ち、華麗なサッカーの一端を披露する。
 ブライトナーを中心にドリブルで駆け上がり攻撃を仕掛ける西ドイツに対して、フランスはプラティニを中心にパスを回して中盤を支配する。14分、リトバルスキーのFKがバーに当たる。フランスも16分、プラティニのFKをロシュトーが落とし、ジャンジーニがシュート。しかし先制点は西ドイツが挙げる。18分、ブライトナーのドリブルからパスを受けたフィッシャーがシュート。GKエトリが詰めて跳ね返したところをリトバルスキーがグラウンダーでGKの脇を通すシュート。手を回して喜ぶリトバルスキーの姿はおなじみだが、まだ22歳。若かったなあ。
 しかしフランスもあっさりと追い付く。27分、ジレスが蹴ったFKをプラティニがキープしてロシュトーにパスをすると抜け出ようとしたロシュトーがDFに掴まれPKをゲット。プラティニが難なく決めて同点に追い付いた。
 31分にはシスのCKをロシュトーが落とし、ジャンジーニがミドルシュート。34分にはCBのトレゾールが持ち上がりアモロへパス。クロスはシスに届かなかったが、CBが前線まで上がっていくトレゾールの動きは現代サッカーを見ているようだ。41分にはシスからロシュトーがポストになってプラティニがシュート。対する西ドイツもロスタイム、ベルント・フェルスターのクロスにリトバルスキーがヘッドで合わせるが、GKに好捕される。
 後半5分、フランスはジャンジーニに替えてバチストンを入れる。ケガではないかと解説されていたが、これがその後のゲーム展開の伏線と一つとなる。12分、プラティニの美しいスルーパスがピッチを切り裂きバチストンに渡る。シュートを放つが、その身体めがけて西ドイツのGKシューマッハがセーブに飛び込む。頭を打って倒れたバチストンはそのまま意識を失いピクリとも動かない。結局、フランスは交代出場させたバチストンをわずか7分で失い、2枚目のカードを切ることを余儀なくされる。当時は選手交代は2人までで、以降選手交代ができなくなった。
 この出来事に対してファールもカードも出されることなく、ゴールキックでゲームは再開される。しかしこの後フランスは怒涛の怒りの攻撃を仕掛ける。30分、FKにプラティニがオーバーヘッドキック。34分にはアモロのドリブルからシスがシュート。再三セットプレーのチャンスを得るが、西ドイツの守備も固く、どうしても得点が入らない。逆に35分にはブライトナーのスルーパスにブリーゲルがシュート。これはGKが好セーブ。37分、シスのクロスからロシュトーのヘッドもGKが抑える。40分、ブリーゲルがドリブルからシュート。ロスタイムにはアモロの糸を引くようなミドルシュートがバーを叩けば、ブライトナーのミドルシュートはGKが弾き、かろうじて抑える。バチストンの負傷交代以降、フランスが積極的に攻めたが、西ドイツが守り勝ち、ゲームは延長戦へと向かった。
 後半はフランスの勝ち越しゴールで始まった。プラティニが倒されて得たFKをジレスが蹴ると、壁に当たって弾道の変わったボールはフリーで待つトレゾールのもとへ。これを見事にボレーで決めてフランスがついに勝ち越した。8分にはプラティニのパスをシスが落としジレスがシュート。点差を2点に広げる。しかしここから西ドイツが踏ん張る。
 延長4分に満を持してルンメニゲを投入。10分、ベルント・フェルツナーのクロスにフィッシャーのヘッドはオフサイドを取られるが、13分、ルンメニゲからリトバルスキー、そしてCBから上がってきたシュティーリケが左に回ったリトバルスキーにパスを出すと、クロスに対してルンメニゲが猛然と走り込み、DF、GKの前で触ってゴールにねじ込む。ルンメニゲ気迫のゴール。
 このあたりからフランスはティガナを除いてほぼ全員、疲れから動けなくなり中盤でプレスがかからない状態になっていく。延長後半3分、リトバルスキーのクロスにルベッシュが折り返すとフィッシャーが見事なオーバーヘッドを決めて同点に追いついた。その後は両者攻め合うが、お互い緩慢な動きのまま時間が過ぎ、タイムアップを迎える。
 この大会から規定された延長戦後のPK戦。このゲームがW杯史上初のPK戦だそうだが、ドイツはこれ以来PK戦で負けたことがないというのもすごい。PK戦の結果は先に西ドイツ3人目のシュティーリケが失敗。激しく泣いて落ち込むが、直後のフランス4人目シスも失敗。サドンデスの6人目、フランスのボッシが失敗、ドイツのルベッシュは落ち着いて決めてドイツが最初のPK戦を制した。しかしこの準決勝で力を使い果たした西ドイツは、その後の決勝では3-1と完敗し、準優勝にとどまった。
 前半のフランスの華麗なパス交換とDFの大胆なオーバーラップ。延長戦に入っての西ドイツの驚異的な粘りと不屈の精神。初めて見たが、今まで見た中ではW杯史上屈指の好ゲームだったと言って間違いない。すごいゲームだった。