とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

イタリアのゲームだった1994年アメリカ大会決勝

 バッジョがPKを失敗したシーンばかりがたびたび放映されるアメリカ大会決勝だが、久しぶりに見返してみると、ブラジルが優勝したもののバッジョを中心にイタリアのサッカーが際立つ大会だったと思った。もちろん華麗なパスワークや圧倒的な攻撃力があるわけではない。バレージマルディーニを中心とした守備とバッジョマッサーロの鋭いカウンター、そして何より勝利に拘るメンタリティが、この妙に明るい浮き足だったようなローズボールの雰囲気と相まって、何か夢の中の出来事のような気にさせる。
 ゲーム自体は終始ブラジルが攻勢に立ち、ボールキープ率も高く支配していた。前半13分のドゥンガからのクロスに合わせたロマーリオのヘッドはGK正面を突いた。17分にもロマーリオベベットのコンビでシュートを放つが、マルディーニが立ちはだかる。19分にはバレージからのフィード一本でマッサーロがゴール前まで抜け出しシュートを放つ。イタリアの怖さ、神髄を見せつける。
 25分、左SBブランコのFKはアウトにかけて絶妙に曲がりゴールを脅かすがGKパリューカが好セーブで弾き出す。36分にはマルディーニがタックル一発、ベベットからボールを奪いバレージが持ち上がる。マッサーロバッジョとつないで最後はバレージにつながるがブラジルも何とかここでカウンターを止めた。
 イタリア初戦で膝を痛め、手術を受けてなんと決勝戦に間に合わせてみせたバレージ。2戦目以降のイタリアの苦戦と勝利はひとえにバレージの復活を待つためにあった。そしてぎりぎりで間に合わせたバレージが守備と攻撃の両面でイタリア・チームを牽引している。その復活には涙がこぼれるが、その活躍にはケガがなければこの大会のイタリアはどんな活躍を見せていただろうかと震撼とさせる。
 後半に入ってもブラジルが攻めてイタリアが守る展開。だがブラジルが攻めあぐね、イタリアが粘り強く守り続ける。後半19分、ドナドーニのシュートはバレージが身体を投げ出す。20分にはロマーリオが力強くドリブルで前進し、ベベットとのワンツー(実際はDFに当たる)からシュートを放つ。30分、マウロ・シルバミドルシュートをGKがファンブルするがポストに当たって跳ね返りGKが胸に納めた。アブナイ、アブナイ。37分にはドナドーニのクロスにバッジョが合わせるが、ゴールならず。
 ブラジルはボールをキープするものの連携がとれずスピードが上がらない。暑さのせいかもしれない。イタリアも読みと一瞬の頑張りで守りきる。しかし体力は次第に限界に近づいていく。
 延長戦前半4分、カフーのクロスにベベットが返すが、ロマーリオにつながらない。7分、バッジョミドルシュートはGKタファレルが難なく抑える。延長後半5分、カフーベベットとのワンツーで抜け出し、クロスにロマーリオがシュートするもわずかにポストの外側に外れる。ロマーリオの推進力とベベットの連携力は群を抜くが、どうしてもゴールが入らない。7分には延長から交代出場のビオラが豊富な運動量からゴール前でドリブル、ロマーリオにパスするがバレージが見事にセーブ。この期に及んでのバレージの読み。
 イタリアも6分、マッサーロバッジョとのパス交換から抜け出し、最後は上がってきたベルティに渡すが、ゴールならず。9分、バッジョマッサーロとのワンツーから抜け出してシュート。しかし直後に足をつったバッジョのシュートは力なくGKの前に転がった。その後にはバレージも足をつってピッチ外に送り出される。すべてを絞り出した死闘。
 こうしていよいよあの有名なPK戦になだれ込む。このゲーム当時、たまたま北海道へ出張しており、レンタカーの車中でラジオから流れる実況を聞いていた記憶があるのだけれど、あれは別のゲームか、それとも思い違いか。ロサンゼルスとの時差を考えると、午前中とは言え日本で生実況を聞けるはずがないような気もする。いずれにせよ、ラジオから流れる音声だけでは詳しいことはよくわからず、ただ結末だけを覚えている。バッジョの蹴ったPKがゴール高く飛んでいって、場内の歓声の中、立ちすくむバッジョ
 だが改めてPK戦を見ると、バレージバッジョと同様の軌跡を描いたPK失敗から始まっていた。そしてそのまま崩れ落ちるバレージPK戦自体はバッジョの前、マッサーロの失敗で決まっていた。その後を成功させたドゥンガ。追い詰められたバッジョ。そして失敗。
 暑さの中で見所の少ないゲームだと思っていた。確かに好ゲームとは言えないだろう。だが、バレージの能力、バッジョの技術、マルディーニマッサーロの才能。アリゴ・サッキが率いた94年イタリアチームは後世に伝えられるべき資格を持った好チームだった。それを確認した一戦だった。