とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

溌剌とした好ゲーム 南アフリカ大会開幕戦

 W杯南アフリカ大会がいよいよ始まった。くだらない特集番組など止めて、開幕セレモニーをもう少しじっくり見せてほしかったが、日本のマスコミはアフリカ初の大会の喜びや意義を伝えるよりも、南アフリカの治安不安を煽る方がお好みのようだ。しかしあの小型一輪車型フンコロガシはもっとしっかり見たかったな。なかなかいいじゃないか。わが家にも1台ほしい。
 また、軽薄なブラッター会長の横で、ズマ大統領の思わず笑みがこぼれて仕方ないという嬉しそうな顔もよかった。「アフリカ大陸の大会だ」という宣言は、他のアフリカ諸国がどう聞いたかわからないが(嫉妬などのマイナスの感情もあったかもしれないが)、世界の多極化の流れの中でいよいよアフリカの自立に向けた一歩が始まったという自負と使命感と喜びがあふれていた。
 さて、開幕戦である。過去開催国が初戦で負けたことはないそうである。一方、メキシコは最多5回目の開幕戦登場で過去勝利がない。そのジンクスそのままのゲーム展開になってしまった。
 序盤は南アフリカ選手の動きが硬く、ほとんどメキシコがボールをキープして回すメキシコ・ペースの立ち上がりだった。3分、アギラルのクロスにドスサントスが詰めるが、GKが防ぐ。15分にはドスサントスのCKにフランコがヘッド。19分にはドスサントスがドリブルからシュートを放つ。前半のメキシコの攻撃はすべてこの若き司令塔、バルセロナの下部組織で育ち、現在ガラタサライで活躍するというドスサントスの足を経由して生まれていった。
 一方、15分過ぎ位から次第に硬さも取れてきた南アフリカ。ワンタッチパスが続くと、その速さにメキシコもついていけず、いいところまで迫るが、なかなかシュートまで至らない。32分にはアーセナルに所属するベラのふわっとしたスルーパスフランコが抜け出してシュート。34分にはフランコから右に開いたベラのいいクロスがゴール前に供給されるが得点ならず。33分にはCKからベラがゴールネットを揺するがオフサイド。そして41分にはドスサントスのFKにフランコがヘッドで合わすがゴールならず。
 ことごとくチャンスを逃し続けるメキシコに対して、南アフリカは40分過ぎから連続してCKを奪い、ようやく攻勢に出る。特に44分のチャバララのクロスにムペーラが飛び込んだ場面は惜しかった。
 前半終えて圧倒的にメキシコ・ペース。南アフリカも開催国とはいえメキシコ相手では厳しいかと思いつつ始まった後半。前半同様、メキシコがボールを回す展開ながら、前半のようにはチャンスが作れないなあと見ていた後半9分、PA前でメキシコのパスをカットしたところからレチョロニャーネ、ムペーラとつなぎ、ディガコイ(多分)がスルーパス。これが左サイドを駆け上がったチャバララに見事につながり、あっという間に先制ゴールをメキシコのネットに突き刺した。前半の速いワンタッチパスが何本もつながるところにその片鱗を感じてはいたが、南アフリカのカウンターは速くて脅威だ。あっという間にピッチ全体を駆け抜ける。
 25分にも右サイド、レチョロニャーネの長いスルーパスにモディセが抜け出しGKと一対一からシュート。メキシコはカウンターへの脅威から次第に前に出ていけなくなり、ドスサントスもほとんど沈黙。このままジンクス通り、南アフリカが勝利をあげるのかと思った。しかしここからがメキシコの真骨頂だった。
 12分、グアルダードを左サイドに入れて3バックにすると、23分にベテラン37歳のブランコ、27分にはフランコに替えてエルナンデスを投入。このベテラン、ブランコの動きが絶妙。どたどたと中盤まで戻ってどこにいるともなしにゆらゆらとぶらつくと、その動きに幻惑されててか、守りを強固にしたはずの南アフリカの守備陣にとまどいが生まれる。
 そして34分、ブランコのCKからグアルダードが中央を探りつつ持ち替えて山なりのクロスをあげると、ばらばらと上がった南アフリカ守備陣の中で一人取り残されたモコエナがギャップとなり、ラファエル・マルケスにフリーでわたってシュート。あっけなく同点に追いついた。一瞬、マジックにかかったようなぽっかり空いた時間。ブランコ・マジックと呼んでおこう。
 南アフリカも45分、GKからのフィードが前線のムペーラにわたりシュートを打つが、無情にもポストに当たり勝ち越しはならなかった。しかしまるでアメリカンフットボールショットガン・フォーメーションのように、一瞬で大勢の選手が前線に走りだす南アフリカのカウンターは脅威だ。一方、老獪なブランコ・マジックにドスサントス、ベラ、エルナンデスの若手が噛み合ったメキシコもこの大会も一筋縄ではいかないことを示した。
 まだフランスvsウルグアイ戦を見ていないので何とも言えないが、意外にAグループは開幕戦を戦ったこの両チームがグループ抜けするのではないか。そんな予感を感じさせる溌剌として清々しいアフリカ大会にふさわしい開幕戦だった。