とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

環境主義は本当に正しいか?

 筆者はチェコの現職の大統領である。国連主導で進められる環境主義の政策に対して敢然と反旗を翻している。共産主義の国で半生を過ごしてきた人間による「環境主義は人間の自由を奪う」という主張は、資本主義の国で育ってきた人間にはない説得力がある。
 地球温暖化は、政治的、経済的、また哲学的な立場からのプロパガンダに過ぎないと主張する。筆者は政治家であり、経済学者である。よって地球温暖化について科学的な反証を上げていく訳ではないが、経済学的な見地から、予防原則による絶対主義を否定し、費用便益分析による理性的な解決を求める主張には一理ある。
 説得力のある筆者の本文に対して、訳者である早稲田大学・若田部教授の解説がまた当を得ている。一方的に賛美するのではなく、行き過ぎた議論に対しては冷静に問題点を指摘し、その上で筆者の主張する経済学的な視点での議論の有用性を提示している。環境主義が、クラウスが主張するように一切の反対を認めない全体主義的な様相を呈しているときに、冷静な議論は本当に重要だと思う。
 人類はまだまだ変化し得るし、自然はこれまでも、そしてこれからも変化し続けるだろう。COP10が今年名古屋で開かれるが、「今こうしている間にも何万種もの生物が絶滅している」という言葉は、「今こうしている間にも何万種もの生物が誕生している」という言葉と対で語られねばならない。そして「多様性が絶対善」という思想を疑う必要がある。
 「人間こそがいなくなるべきだ」と「人間の存続をこそ第一に考えるべきだ」の間で、「人間は人間としてあり続けるだろう。たとえ姿形がどんなに変わろうとも」という立場がありうるように。我々はもっと未来を信じなければならないのかもしれない。そんな勇気すら与えてくれる一冊である。

「環境主義」は本当に正しいか?

「環境主義」は本当に正しいか?

●環境主義のイデオロギーは、勝ち誇ったように世界を席巻している。それは力強い支持者がいるからだ。政治家たちは、・・・このイデオロギーがとても有望な政治的推進力をもつことに気づき、それが有権者の票をもたらすと信じた。・・・多くの経営者は、このイデオロギーによって市場の厳しいルールから逃れることができ、求めれば国から特権を確実に得ることができると考えた。また、知識人、新聞記者、あらゆる種類の社会主義者たちは、自由や市場、資本主義との終わらない戦いのために、このイデオロギーを利用しようとしている。(P3)
地球温暖化は、真実とプロパガンダの衝突を象徴する、典型的な問題である。ひとつの政治的に公正な真実が決まってしまうと、それに異を唱えることは生やさしいことではない。(P9)
●環境主義者は、人間と同じように、自然そのものが自らに適した状態を絶えず探し、作り出しているという事実さえ無視している。人間の活動のせいで状況が悪くなってしまう場合もあるかもしれないが、以前より生育状況がよくなっている動物や植物の種もあるかもしれない。自然そのものが、このような変化にかなり柔軟に対応している。・・・だから、過去数十年の間に消滅してしまった種を数え上げようとする統計学者は、ひどい誤りを犯しているのである。(P22)
●環境主義者は一般に(自分たち以外の)人間の自由を認めようとしない。彼らの反自由主義的、国家統制主義の考えの基礎には、人類(そして人類の技術的進歩)を信頼せず、自分たちにしか状況は変えられないというマルサス主義者の思い上がった信念がある。(P53)
●私は生涯のほとんどを、共産主義の社会で暮らしてきました。・・・共産主義に代わる新たな脅威として現れてきたのは、野心的な環境主義です。このイデオロギーは、地球と自然について説き、古いマルクス主義者に似た自然保護のスローガンのもとに、人類の自由で、自発的な進化に代えて、世界規模の中央集権的(今風にいえばグローバルな)計画を実施しようとしています。(P146)