とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

街場のアメリカ論

 「街場の○○」シリーズの最初の巻になるのではないか? 「街場の中国論」など一連のシリーズは楽しんで読んでいるので、本書についても当然読んでいると思っていたが、なぜか蔵書リストにない。単にリストから欠落しているだけなのか、本当に読んでいないのか、定かでないが、読み終えてみて、どこかで読んだような文章もあるし、全く記憶にない部分もある。いずれにせよ楽しく読み終えることができたのでよかった。
 普天間基地問題、騒がしき頃には、「今後の日米関係をいかにしていくのか」は重要な喫緊のテーマだと思ったが、首相と幹事長の辞任が成し遂げられた後は、まるでなかったかのように、「日米関係は永久に不滅です」といった雰囲気になっている。でもアメリカは変化しているし、日本も、そして中国などの周辺諸国もこのままではいられない、はず。
 今後の経済情勢や政治状況など、将来的な見通しは色々なメディアで語られているけれど、もともとの「日本とアメリカの関係」というか、「アメリカ人やアメリカ国についてどこまで知っていて、どうつきあってきたのか、どうつきあっていくのか、その根本的な両者の立ち位置、考え方、習性、癖などはご存じですか?」という問いに対して、「大学院の授業で考察してみました。そうしたらこんなアメリカの姿は浮かび上がってきました。」という体で作成された本。
 なるほど。日本人が勝手に作り上げてきたイメージからは随分違う姿・形や性向をしている。でもそれって、確かにナットクできる。アメリカ人って、日本人とは随分違う人種、違う動物なんだ。言葉が違うだけじゃなく、性格や行動様式、常識も違うのだから、そういう相手としてつきあっていかなくてはいけない。そんなことを改めて反省してしまう。
 違う動物だけど、欲望の対象としての「他者」として、日本人アイデンティティの根幹の一部になっている。それを排除すると「日本人」という自己認識自体が倒れかねないような存在。だからこそしっかりと相手を理解することが必要だ。
 一方で、「アメリカの没落」についても語られている。それは日本人のアイデンティティの崩壊にもつながりかねない。だからどうという処方箋はないのだが、全体の動きをよく観察して、個々人としての選択(選択しないという選択も含めて)の責任を引き受けていくということくらいか。それこそが構造主義的な生き方なのだと思うけど。
 いつもながら内田先生の本は面白い。次は「街場のメディア論」も出るそうだ。先生、最近、新聞にもよく登場されますね。先達者の一人として今後もウォッチしていきたいと思います。

街場のアメリカ論 (文春文庫)

街場のアメリカ論 (文春文庫)

●1853年にペリー提督の砲艦が浦賀に来航する。おそらくこの瞬間に、日本人は千年来の「ロール・モデル」であった清を見限り、「私たちが『それではない』ことをアイデンティティの基礎づけとする他者」として、太平洋の彼方の国を選んだ。日本人はそのようにして1850年代に「国民的な欲望の対象」を中国からアメリカにシフトした。そして、このシフトは無意識的に行われた。日本が「他者」を中国からアメリカに切り替えたことを、当の日本人も気づいていなかったのである。(P15)
●ある出来事が起こる。そのあと別の出来事が起こる。それが原因と結果のように見えるとしたら、それはそのままでは原因と結果の関係で結ばれているようには見えないからです。ややこしい話ですみません。でも、そうなんです。・・・ですから、「この出来事の原因はこれこれである」という説明が教科書では当たり前のようにさらりと書かれていますけれど、「原因」ということばが使ってあるときは注意が必要ですよ。「原因」ということばを人が使うのは、「原因」がよくわからないときだけなんですから。(P36)
●アメリカの建国の父たちは、「アメリカが今よりよい国になる」ための制度を整備することより、「アメリカが今より悪い国にならない」ための制度を整備することに腐心したからです。だって、アメリカは理想の国を既に達成した状態からスタートしたんですから。・・・(まだ改善する余地があるということになると、アメリカは理想国家ではなかったということになりますから)。・・・その前提になるのは「人間はしばしば選択を誤る」というリアルな人間観であり、その上に築かれたのが、「誤った選択がもたらす災禍を最小化する統治システム」です。そして、建国の父たちは「多数の愚者が支配するシステム」の方が「少数の賢者が支配するシステム」よりもアメリカ建国時の初期条件を保持し続けるためには有効であろうと判断したのです。(P117)
●アメリカは遠からず「没落」するでしょう。これは避けがたい流れです。ですから、戦略的な考え方をするならば、私たちの優先的な課題は、「アメリカが滅びていくことがもたらす被害をどうやって最小化するか」ということに集約されます。・・・アメリカにはできるだけゆっくりと没落していってもらいたい。いかに周囲を巻き込まないで、静かに滅びてもらうかということを、ヨーロッパとかアジアの諸国が考えて、政策的に提言してゆかないといけないんじゃないかと思います。(P134)