とんま天狗は雲の上

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地域主権の近未来図

 「まえがき」には「参議院選挙の前に出版し、各政党の地方分権に関する主張の是非を判断する際の参考にしてもらいたい」(P5)と書かれているが、購入は参院選前だったが、読んだのは参院選後だった。と言っても、各党、地方分権について争点になっていなかったので、あまり影響はない。そもそも参院選の立候補者が中央集権的な全国政党の所属なので、地域主権について明確な論点を持っていない。地域は自らの地域を自らの手で決める権利と手段を奪い取らなければならない。日本の地方にはまだそこまでの気概と意識を有する地域は数少ない。
 地方分権が首長の権力強化につながるだけで、住民にとってのメリットが見られない、と言う。本書で述べる「地方議会の強化」が必要かもしれない。本書では「永田町改革」という言葉を使っている。国会で扱っている事柄の多くを地方議会に移すこと。それは国会議員の定数減にもつながる。地方議会が首長の対抗勢力として、権力監視を行うこと。今の地方議会は、議員が地元で「いい顔」をするための機関・システムとなっている。
 地方税の自主課税についても提案されている。行政の業務量に応じて、税金を増減すること。まずは税金を減らす(と同時に行政サービスも減少)ことで、行政サービスと税金が連動し、かつそれを住民が決しうることを理解する。名古屋市の河村市長の住民税減税と地域委員会についても取り上げられているが、うまく住民意識の変革に結びつけばいい。地域主権は住民の意識と覚悟から始まる。
 第1章の片山善博との対談で主だった考えは披露されている(片山氏がほとんど語っているような気もするが)。第2章は岩手県知事時代を中心とした事例紹介。第3章では、道州制住民投票制度を取り上げているが、特に住民投票法について早期の実現を求めている。第4章は朝日新聞への連載記事の転載である。東北地方の農業や鉄道の現場を訪れての提言という形となっているが、どちらかと言えば突っ込みが足らない。
 内容が薄く網羅的という印象だが、あくまで一般市民向けの易しい内容で、参院選に間に合わせる、という意図が優先したのだろう。現実の政治論点として、特に地方から、住民から、地域主権が取り上げられ議論されるようにならなければいけないし、日本の近未来の可能性の一つはそこにあるのだと思う。

地域主権の近未来図 (朝日新書)

地域主権の近未来図 (朝日新書)

地方分権はあくまでも一つの手段に過ぎない。その目指すところは毎日毎日営まれる市民生活が少しでも豊かになること(P3)
●自分たちの仕事の種類と量を決める。それに見合う税負担を自分たちで決める。仕事を増やせば税負担は上がる。仕事を減らせば負担は下がるというバランスの中で、地域経営が本来、できていくわけです。/だが、日本の場合には、税率を動かさずに、どういう仕事をどれだけするかを論じてきた。住民たちは当然、自分たちの負担、税率が変動しないのであれば、仕事をたくさんやってくれと要求するに決まっています。(P29)
●経済の分権は市場化ですね。統制経済社会主義経済から市場化するというのは、政府や官僚中心の経済から消費者や生産者が中心となる経済に移行するということです。/では、政治の分野での分権とは何か。これまでは地方分権の名のもとに、ともすれば自治体を強化し、首長を強くしてきたけれど、本来はそうじゃない。当事者である住民の政治参画機会を拡大する、納税者として自分たちの意思表明の機会を拡大する、ということであるはずなんです。(P45)
●将来的には、中央から独立した政党の拡大を期待したいですね。・・・今は中央の政策の受け売りばかりですが、地域の政策を練る存在が必要でしょう。(P177)