とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ひかりの剣

 「ジェネラルルージュの凱旋」の速水晃一と「ジーンワルツ」できらりと光る脇役を演じた清川吾郎。ふたりは医学部剣道部の大会、医鷲旗を競い合うライバルだった。帝華大と東城大、医学界に君臨する二つのライバル校の剣道部における好敵手であり、対象的な部活動を展開していた。剣道一筋、部主将として責任感を横溢させて部員を引っ張る速水に対して、ちゃらんぽらんのサボり魔のくせに天才的な剣道を披露する清川。
 この対象的な二人の間に、帝華大看護学部でマネジャーの朝比奈ひかりが現れ、両者を剣の極意に引き込み、そしていよいよ医鷲旗大会が始まる。
 その他にも、あの高階病院長が両大学剣道部の顧問として現れ重要な役割を果たし、また清川吾郎の弟・志郎、帝華大剣道部女子責任者塚本など、魅力的な人物がふたりの物語を彩り、楽しく進行していく。
 塚本は助産婦になるようだから、ジーンワルツに出てるかと思ったが、マリアクリニックとは今のところ縁がなさそう。しかしこの小説のタイトルにもなっている朝比奈ひかりともども、近い将来、魅力的な脇役の一人としてきっと登場するはずだ。楽しみにしている。
 最後に、解説を元警察庁長官・國松孝次氏が書いている。元警察官僚ということで硬派のイメージだが、さすが東大法学部卒。剣道部。読みやすく親しみのもてる文章で見事にこの作品を紹介し、読後感をサポートしている。解説も必読。

ひかりの剣 (文春文庫)

ひかりの剣 (文春文庫)

●医療とは、教科書を覚え疾患名で頭をいっぱいにするだけで習得できるものでもない。大きなものほど、ゆっくり育てなければならない。(P8)
●どう考えても、速水君みたいな不器用者ではてっぺんは取れないし、ね。それは世の中に出ても同じことだ。世の中を動かすのはきっと、清川君のように如才ない、柔軟なしたたかさを持った人間なんだろう(P282)
●ふたりの英雄が、覚醒するためにはお互いの存在が必要だった。そしてこの物語は、ふたりの運命が交錯した眩い奇跡の瞬間の、破壊と生成の神話だったのである。(P335)
●海堂さんは、明らかに小説を医師の目線で書いている。医療の現状を的確に把握し、医療改革の方向を鋭く見つめ、小説表現を通じて、その問題点を世に問うている。そして、その目線の基をたどると、海堂さんの医療と剣道の相互関係に関する基本理解に行きつくような気がしてならない。(P342)