とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ITに合わせた社会への変革

 北川正恭氏の講演を聴いてきた。三重県知事を経て、「マニフェスト」を世に広め、現在は早稲田大学大学院の教授を務めつつ、21世紀臨調新しい日本をつくる国民会議)代表を務め、地域主権戦略会議にも委員として参加している。
 演題は「地域主権改革と今後の日本」。最後は地域主権改革に関わる話になったが、最初は、「今後世界は、ITに合わせた社会・組織・仕組みへの変革が余儀なくされる」と大きな話で始まった。
 ここで例に挙げたのが、海上保安官You Tube投稿事件。「ITはこれからの社会にとって最大のインフラである」と語った上で、「情報が瞬時に世界に公開され、共有される時代にあって、政治体制や官僚体制など社会の仕組みは大きく変わらざるを得ない」と主張された。
 確かにそう言える。インターネットを通じ、誰でも国会で何が審議されているか知ることができるし、投票に参加することだって技術的には可能だ。国会議員という限られた代表者のみが議論に参加できる仕組みは、時間的制約上は仕方ないかもしれないが、党利党略を反映した変則的なルールが支配しない形での代表者の議論という方法はありそうだし、投票などは全部インターネットによる住民投票とすることも近い将来の方法としては考えられる。民主主義のルールも、ITの進展に合わせて変える必要がある。
 官僚の世界もそうだ。今回、海上保安官は流出させた情報が秘密と言えるかどうかで議論があり、とりあえず「逮捕しない」こととなった。情報公開の流れの中で、どこまでが守秘義務の対象となる秘密なのか、公務員にとっての守秘義務規定が揺らいでいる。
 北川氏は情報公開についても、三重県において予算成立過程(担当課室からの要望から査定に至る経過)をインターネットで公開し、確か事務事業仕分けも公開の第三者委員会が実施していたはずだ。講演の中では、「官僚が政治を行うわけでもないのに、財"政"課と名乗るのはおかしいと、財政課を無くした。」と言っていたが、まさにそのとおりで、国も財務省の主計官が財政査定を行う仕組み自体がおかしい。要求段階からすべて公開し、最後は国民によるインターネット投票で査定・決定する仕組みだって考えられる。
 今読んでいる内田樹の「子どもは判ってくれない」に、情報は「社会の差別化に関与する基幹的財貨」(P221)という記述がある。差別化は権力や威信の源泉である。
 内田氏の論考は、「権力」「貨幣」の崩壊が人間に快感を感じさせると同様に、「情報格差」が崩壊していく過程を実感できることが快感であり、また逆説的に「情報」が権威の源泉として機能している証拠だという趣旨のことを述べているが、まさに情報はその差別化ゆえに権力に直結し、それが崩壊することで社会は劇的に変わる。
 ITにより情報の差別化が無化される状態における社会の有り様もまた、それまでの社会とは大きく異なるのは確かに自明のことのように感じられる。やはり今我々は時代の変わり目にいるのだろうと思う。
 なお北川氏の講演はその後、得意の「北京の蝶々」の話で聴講者の蹶起を促し、「不易流行」を語ってPDQCサイクルのマネジメントと同時に理念の重要さを謳い、ダイアローグ(対話)と創発の重要性と可能性を自慢げにアピールし、地方自治体の憲法としての自治基本条例の制定を提案し、共通背番号制の創設運動に取り組むことを宣言していた。聞きながらこの人は、知識人であり、扇動家であり、根っからの政治家なんだなと思った。