とんま天狗は雲の上

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新公益法人法は、合法的な公金マネーロンダリングだ。

 新公益法人法は2008年12月に施行され、これまでの公益法人は2013年11月までに一般社団・財団法人か、公益社団・財団法人のいずれかに移行するか、または解散しなければならなくなった。
 私が関わっている公益法人もいくつかあるが、そのうちの一つ、愛知建築士会はこの4月に公益社団法人の認可を得て、晴れて「公益社団法人 愛知建築士会」となった。全国組織である日本建築士会連合会ですら一般社団法人化をめざすとウワサされる中で、地方団体が公益社団法人の認可を得たことはかなり誇っていいことだと思う。
 いや本来は、これまで公益法人と名乗っていた多くの団体が、新公益法人法の制定を機に雪崩をうって一般法人化を目指すことの方が恥ずかしいと言える。
 新公益法人となるための要件は大きく言えば次の二つである。(1)公益目的事業を行うことを主たる目的としているか(公益目的事業比率が1/2以上)、(2)公益目的事業の収入が適正費用を超えていないか。
 (1)を満たさない団体は、そもそも公益法人の名に値しない。ただし、公益目的事業比率が1/2以上というのは、時流の中で当初、公益目的で始めた先導的事業が一般化して予想外の事業収入を上げるようになることも考えられ、必ずしも悪いわけではない。(2)に反するということは、公益目的事業で暴利を貪っているということである。いずれにせよ、これらに該当しない法人は速やかに一般法人となることが望ましい。
 問題は、公益目的事業が大半で、大して収入も上げていないような団体が一斉に一般法人化をめざしていることである。
 行政改革本部事務局作成の「公益法人制度改革の概要」を見ると、「新公益法人をめざすも一般法人をめざすも自由ですよ」と相当にプレーンな内容になっている。いや、新公益法人をめざすと「一定の税優遇等はあるものの行政庁による監督があって大変ですよ」と暗に一般法人化を促しているように読めなくもない。
 社団法人の場合はそれもいいだろうが、問題は財団法人の場合だ。財団法人というのは、設立時に一部の資産家や自治体・国等からの財産等の寄贈を受け、それを原資に公益事業を行ってきた団体だ。当然、出捐(えん)者は公益事業の実施のために財産等を寄贈している。しかし、新公益法人法の下では、これらの財団は、寄贈等を受けた財産をすべて公益目的事業に費消することを明らかにした「公益目的支出計画」を策定し、内閣総理大臣又は都道府県知事の認可を受ければ、一般財団法人となることができることになっている。
 もちろん「公益目的支出」であり、移行時点の正味財産額をすべて費消し終えるまで行政庁の監督は継続されるとあるので、いいのではないかという意見があるかもしれないが、先日、ある財団法人の収支決算書を見た人から「公益目的事業の大半が常勤職員の給与になっている」という話を聞いて愕然とした。すなわちこういうことである。
 基本財産1億円の財団法人があったとしよう。毎年1千万円の利子収入があり、これを給料に充てて1名の常勤職員を雇い、公益目的事業を実施している。これは出捐者が当初想定した事業形態である。ところが一般公益法人化をめざすとすると、次のようなことが可能になる。
 一般公益法人後の収益事業のためにもう1名常勤職員(給与1千万円)を雇用し、彼が収益事業により毎年1千万の収益を上げるとする。一方、公益目的支出計画では、移行時の正味財産1億円は公益目的事業を行う常勤職員の給与に充てて、10年間で使い切ることにする。こうしてめでたく10年後には一般財団法人には公益目的事業のための基本財産は1銭もなくなり、行政庁の監督も受ける必要もなくなって公益目的事業から撤退することになる。
 ところが、基本財産は毎年1千万円の利子を生むことを忘れてはならない。すると10年後には1億円の利子収入が積み上がっている。しかしこの利子に対しては、基本財産から生み出された利子にも関わらず、公益目的収支計画の対象にならず、自由に使うことができるのである。
 結局、設立時には出捐金から生み出される「利子」で未来永劫公益目的事業を継続してもらえるだろうという出捐者の期待は、新公益法人法によりあえなく裏切られ、出捐金自体に手が付けられて、使い切った後は、当初の目的とは異なる事業を実施する法人となってしまうのだ。
 もちろん、いまどき年10%もの利回りはあり得ないが、その分は収益事業の収益や補助金等で補填していると考えてほしい。
 この仕組みについては、次のような見方もできる。
 公益法人制度改革の目的の一つに、天下り法人の廃止・縮小がある。国等の出捐により設立された財団法人に天下りした職員は、これまで(概念的には)基本財産の利子で給与を得てきたが、一般法人移行に伴い、堂々と基本財産から給与に掠め取ることができるようになるということだ。
 しかも公益目的収支計画完了後は、本来国民の税金から支出された基本財産から生み出された利子を原資とする積立財産を、行政庁の監督外で、ということは国民の監視のないところで、正々堂々かつ自由に使い切ることが可能になる。
 これがマネーロンダリングでなくて何であろう。しかもこの法律があたかも公益法人を適正化する正義の味方のように喧伝されている。
 最初に「公益社団法人 愛知建築士会」を紹介したが、公益法人化をめざすのは一部の民間主体の社団団体だけだろう。民間主体の社団団体は「公益」という言葉を欲するが、公益を担うべき国や地方自治体等が出捐した財団法人は一般化をめざす。結果的に公益「社団」法人ばかりが多くでき、財団法人は軒並み「一般」財団法人になるだろう。
 財団法人に蓄えられた国民の納税から得られた埋蔵金は、新公益法人法の下、天下り官僚たちの私腹に変わろうとしている。我々国民の知らないところで、「一般」財団法人化という合法的なマネーロンダリングが進められているのだ。