とんま天狗は雲の上

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気候変動とエネルギー問題

 著者の深井先生は金属物理学の研究者である。しかし、あとがきによれば、大学時代、気象学に興味を持ち、卒業研究の対象とした。その後、金属物理学では原子炉材料の放射線損傷などを勉強し、金属中の水素の研究とのつながりで、エネルギー関連の貯蔵材料としての水素についての知識も得ることになる。さらに地球物理に関わる経験も持った。
 気候変動もエネルギー問題も直接の専門ではないが、これらの経験からある程度の理解できると言う。その立場で、ということは原子力村や地球温暖化村に関わりのない立場で、地球温暖化問題やエネルギー問題に対して調べ、本書を著した。その故こそ、信頼できると言えるかもしれない。
 250ページ程度の新書で、序章を含めて全部で5章に分かれているが、このうちクライメートゲート事件を取り上げた序章が50ページ、「気候変動はどうして起こるのか」と題する第1章が約100ページで、これで大半を占めている。もう一つのヤマは第3章「未来のエネルギー源―核融合」である。これらの主な内容は225ページから227ページまでの約2ページにまとめられている。
 これをさらに簡単にまとめれば、
(1)気候変動は、太陽活動の沈静化→宇宙線の増加→低層雲の増加→気温低下という要因で起こり、二酸化炭素濃度とは無関係。
(2)二酸化炭素人為的排出増加が気温上昇をもたらすとする「地球温暖化問題」はICPPによる詐欺と言える。
(3)よって日本にとって経済的に百害あって一利もない京都議定書からは早期に脱退すべきだが、化石資源を節約することは必要である。
(4)将来的には核融合が有望であり、中でも慣性核融合に取り組むべき。また海藻類を利用したバイオマスエネルギーも可能性がある。
 ということになる。
 化石資源の枯渇については、有限であることを示すだけで、大した記述はない。先日読んだ「エネルギー論争の盲点」では当面は天然ガスを利用すべきだとしていた。多分100〜300年程度の中期的にはそのとおりだろう。そしてその次は海藻バイオマス核融合に可能性が高い。
 もちろん思うように科学的な進展が得られないとか、経済的要因などもあり、このとおりに運ぶとは限らないが、未来に向けて、科学的な根拠に基づいた確かな将来選択を期待したい。少なくとも世界潮流に取り残されることだけは避けたい。既得権益に囚われた現在の日本の政治状況では無理なのだろうか。未来が見える眼にはさぞかし悔しい思いがすることだろう。

気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて (中公新書)

気候変動とエネルギー問題 - CO2温暖化論争を超えて (中公新書)

IPCCとは、一体、何だったのか? 二酸化炭素を種にして地球温暖化という話を作ってみせた魔術師と言うべきか。いや、クライメートゲート事件で露呈した虚構と、CO2温暖化が今世紀最大の科学スキャンダルだという厳しい批判を考えるならば、空気から排出権取引という巨大ビジネス―実業ならぬ虚業―を作り出した詐欺師と言う方が適当かも知れない。(P45)
●以上をまとめると、最近の世界平均気温が急激に上昇しているという確かな観測結果は存在しない、ということになる。/最近、都会に住む多くの人たちが「体感」している急激な温暖化は主にヒートアイランド効果によるものであり、一方、しばしば報告されている動植物の分布の変化は百年以上にわたる温暖化の蓄積効果に違いない。いずれも最近の二酸化炭素濃度の増加とは無関係と考えられるのだ。(P117)
●「日本を離れて国際的観点から眺めていると、政官民一体となって「地球温暖化問題」について騒ぎ立てているのは日本だけではないかと思われるのである。・・・日本が世界の優等生になり、世界をリードしたいのはわかるが、背後にどの国もついてこないプロジェクト・リーダーになっても仕方がない。なぜ、できもしない炭酸ガス放出削減で先走りたいのか。日本の将来にとって最も重要な問題はエネルギーと食糧の確保である。あまり役に立たない炭酸ガス放出防止でじり貧になる必要はない。(P137)
核融合炉は原子炉と違い、事故で暴走することは原理的にありえない。核分裂反応は起こり始めると連鎖反応によって拡大していこうとするのに対して、核融合反応は反応条件が作られている間しか起こらないからである。事故が起これば自然に止まってしまう。また運転によって生じる長寿命の放射性廃棄物もはるかに少ない。・・・このように、核融合が将来のエネルギー源としてとくに有望なのは、資源が十分にあるだけでなく環境負荷も小さいからなのである。実用化までには、まだ長い困難な道程が残されており、巨額の研究投資も必要だろうが、これは人類の未来に向かって避けては通れない道と考えるべきだろう。(P221)
●気候変動と太陽活動との間に強い相関があることは古くから知られていたが、最近、これは太陽磁場が地表に到達する宇宙線量を左右しているためであるという認識が得られた。すなわち太陽磁場が弱くなると宇宙線量が増え、これが低層雲を作ることで気温を下げることになる。現在、対応は長期にわたる活動期が終了したので、今後は活動が弱まるにつれて気温の低下が続くものと予測される。(P226)