とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

旺盛な欲望は七分で抑えよ

 「評伝 昭和の女傑 松田妙子」と副題が付く。松田妙子と言っても知っている人は少ないかもしれない。Wikipedhiaで検索したら、市民活動家・漫画家と出てきた。もちろん別人だ。私は若い頃、元衆議院議長・松田竹千代の娘と聞かされた。もちろんそんな政治家も知らなかった。それで、国のお役人と一緒に現れたその女性は、タバコは吸うわ、上級官僚を顎の先で使うわでとにかくびっくりした記憶がある。当時はHICという建材検索システムを営業していた。いや、させていた。レーザーディスクで動くそのシステムはあっという間に時代の彼方へ去っていった。
 次に会った時には、大工育成塾の塾長という肩書を持っていた。昔ながらの技術を持った大工を育てようという意図は、時代錯誤な感もあったが、国交省の強力な後押しもあって、それなりに発展していった。大工育成塾を巣立って一人前の大工になった若者も既に多く輩出し、その点では意義のある事業だと思う。だが、やり方はかなり強引だ。
 正しいこと(松田妙子がそう考えたこと)は実現しなければならない。そのために政治家を動かし、企業を動かし、官僚を動かす。日本の上流を形づくる階層は意外に薄いのかもしれない。天衣無縫な性格と行動力で作られた人脈を持ってすれば、やりたいことは何でもやれた。だが、その性格と行動力は余人の想像の域をはるかに超える。加えて、人扱いの巧さ。小悪魔のようにチャーミングで大胆。切り捨て、動揺させ、引き寄せる。

●1972年4月号の『Newsweek』誌に、松田妙子が「強烈な個性を持ったレディにしてボス」と紹介されているのを見つけた。(P8)

 「強烈な個性を持ったレディにしてボス」とは言い得て妙だ。だが同時に家庭人でもあることをアピールする。上流階級でない私にはよくわからない。金と人脈に囲まれた子育てのような気もする。
 ここまで好きなように生きられればうらやましいと思う人もいるかもしれない。だがない物ねだりをしてもしょうがない。こういう人には近寄らない方がいいな。君子危うきに近寄らず。いや、君女危うきにつき近寄らず。それにしてももう85才。すごいな。まさに女傑だ。

旺盛な欲望は七分で抑えよ―評伝 昭和の女傑松田妙子

旺盛な欲望は七分で抑えよ―評伝 昭和の女傑松田妙子

●父竹千代を天衣無縫と評し、妙子も同じだとする人がいる。しかし妙子のそれは、父、竹千代のものとは少し質が違うのではないか、と私は思う。妙子の場合は、確信犯的な「天衣無縫さ」とでも言ったらいいかしら。(P45)
●東京の明治屋PXは駐留軍のための店で日本人はお断りだったが、度胸よくぐんぐん歩を進めると、誰もが妙子に道をあけ、身分証明の提示も求めなかった。「誰も見咎めないんだもの、平気で店に入ったわ。アメリカ製のチョコレートやベーコン、特別美味しいカリフォルニアオレンジ、ストッキング、口紅に至るまで、友達に頼まれると、よく通ったわ」(P73)
●両親、とくに父は毎晩バーの片隅で娘のピアノを聴いていて、娘のアルバイト代をゆうに超える金額が店に落ちていたはずである。つねに穏やかにカウンターの隅で見守ってくれていた父が玖美は懐かしい。(P161)
●歯に衣着せぬ屈折のない発言は、正直な意見を聞けなくなった役職の重い立場の人たちにはカンフル剤の役目をするようである。(P197)