とんま天狗は雲の上

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大震災の後で人生について語るということ

 橘玲は金融小説や金融情報に関する著作の多い作家。これまで読んだことはなかったが、橘氏のブログは定期購読している。庶民感覚あふれる記事は、他の経済学者や経済評論家と比べてずっと好感が持てる。そんな感覚を持って本書を読みだした。
 実はタイトルから、金融などに関係のないエッセイかと思っていたのだが、大震災後だからこそ考えた、リスクの多い時代における経済的な観点からの人生処方箋を指南する。
 PART1は日本人の4つの神話を取り上げる。「不動産神話」「会社神話」「円神話」「国家神話」。これらがいずれも当てにならない時代になってしまった。第1の危機は1997年に始まった。そして3.11。
 PART2では、「ポスト3.11の人生設計」と題して、ポートフォリオの観点から人的資本リスクと金融資本の分散化を勧める。そして政府に3つの改革を求める。定年制の禁止、同一労働同一賃金、解雇自由の原則である。日本的雇用制度から流動性のある労働市場を実現することでのみ、日本の危機は乗り越えられると主張する。そして不可抗力なリスクに遭遇した国民は全面的に政府が救う。
 ある程度そのとおりだと思う。私などは既得権益側面の方が次第に大きくなっているが、同時に閉塞感も強く感じている。橘氏が言うような社会になればどんなにいいかと夢想する。

大震災の後で人生について語るということ

大震災の後で人生について語るということ

●サラリーマンになるということは、会社から毎月給料という配当を受け取り、退職金として元金が償還される債券を買うようなものなのです。(P68)
●「不動産神話」「会社神話」「円神話」「国家神話」を前提としたポートフォリオは、戦後の経済成長に最適化した人生設計でした。リスクを回避し、安定した人生を送るために、私たちは偏差値の高い大学に入って大きな会社に就職することを目指し、住宅ローンを組んでマイホームを買い、株や外貨には手を出さずひたすら円を貯め込み、老後の生活は国に頼ることを選んできたのです。しかし皮肉なことに、こうしたリスクを避ける選択がすべて、いまではリスクを極大化することになってしまいました。(P132)
●日本では完全に誤解されていますが、アメリカの雇用制度は「効率」を基準につくられているのではなく、その本質は「公正」と「正義」にあるのです。(P150)
●私たちにできることは、個人のリスクを国家のリスクから切り離すことです。そうでなければ、さらに巨大な黒い鳥が現われたときに、この大切な故郷を守るひとはどこにもいなくなってしまうのです。(P221)