とんま天狗は雲の上

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日本は悪くない 悪いのはアメリカだ

 野田首相がTPP協議への参加を表明した。その際に「国益を最大限に実現する」とコメントした。農産物を守るためという理解がされているが、アメリカについていくことが国益の最大化につながるという趣旨のように思えてならない。
 本書はもう24年も前の1987年に発行された単行本の文書本化だ。文庫本として発行されたのは2009年1月。リーマンショック直後だ。時代によって本書で書き現わしている内容や意味が違ってくる。
 1987年は、アメリカがレーガノミックスによる超経済緩和政策で輸入が膨大に膨らみ、貿易赤字財政赤字が増大。その原因を日本の閉鎖的経済体質に求め、日本車の打ちこわしパフォーマンスが行われたり、中曽根首相が国民一人100ドルの輸入品を買おうと訴えたりした時期だ。
 著者の下村氏は、この状況を受けて、悪いのは輸出を行う日本ではなく、膨大な輸入超過を野放しにしているアメリカだ、と訴えている。加えて、このままではアメリカ経済は崩壊し世界経済へも甚大な影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。が、実際はその後、日本はバブル経済に浮かれ、アメリカにもITバブルが訪れ、さらに日本のバブル崩壊、金融グローバリズムの進展、そしてリーマンショックと現在の世界的な経済不安定の時代へとつながっていくわけで、アメリカ経済の崩壊という下村氏の予言は中期的には外れた、長期的には未定というのが実際のところではないか。
 だから、単純に予言の書として読むことは間違っている。私が本書を読もうと思ったのは、(毎度で申し訳ないが)「内田樹の研究室:雇用と競争について」で、親友の平川克美氏から勧められたと本書が紹介されていたからだ。その際の理由は「国民経済に対する理解」だ。まさにこれこそが、本書の優れて唯一の現在読むべき最大の理由だ。
 野田首相が言う「国益の最大化」は誰が実現するのか。自国の利益は自国が守る。アメリカが守ってくれるわけはない。アメリカを利用し、国益を追求するのは許される。TPPを果たして日本はうまく活用し切れるだろうか。悪い、悪くないではなく、悪いと言われても、いや国際評価も視野に入れつつ、総体的な国益を追求する。それが重要だ。本書はそんな基本的なことを指摘している本である。

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

日本は悪くない―悪いのはアメリカだ (文春文庫)

●この日本列島で生活している一億二千万人が・・・どうやって雇用を確保し、所得水準を上げ、生活の安定を享受するか、これが国民経済である。もちろん、日本は日本でそういう努力を重ねるが、他の国は他の国でそういう努力をする。そこでいろんな摩擦が起きるのは当然なことである。それをなんとか調整しながらやっていくのが国際経済なのである。(P95)
●「完全雇用自由貿易にもまして第一の優先目標である。完全雇用を達成するために輸入制限の強化が必要であれば、不幸なことではあるが、それを受け入れなければなるまい」/自由貿易とはそういうものである。決して、神聖にして犯すベからざる至上の価値ではない。(P100)
●結局、この報告書(前川リポート)がいう体質改善というのは、働く意欲を阻害し、勤労精神・貯蓄精神をゆるめ、節度ある経済・財政運営の気構えをなくして、もっと気楽な気持ちで鷹揚にカネをばらまき、怠けて遊ぶようにしなさい、ということである。そうすれば生活はよくなる、と。/これはどこか狂っている。(P143)