とんま天狗は雲の上

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世代間格差

 1月6日に政府・与党社会保障改革本部による「社会保障・税一体改革素案」が決定された。マスコミ等ではもっぱら消費税増税提案が大きく報じられているが、素案は「第1部 社会保障改革」と「第2部 税制抜本改革」と2つに分かれ、年金制度や医療・介護保険制度、少子化対策、雇用対策、貧困格差対策等についても多くのページを割いている。
 専門家ではないので、この内容やその適否を論ずることはできない。精読すらしていない。だが本書には、この素案につながる現状・課題や分析が綴られ、また筆者独自の提案が書かれている。本書の内容はとりあえず現実を踏まえた適当なもののように思われる。
 「第1章 世代間格差を考える」では、経済的な観点からの世代間格差について分析されている。「世代間格差は本当に問題か?」という項もあり、多面的に分析を行う。世代間の経済的な損得以上に、制度の持続可能性という観点から、現在の社会保障制度や労働・雇用システム等が制度疲労を起こしている、というのが本書の基本的な立場である。
 その認識に立って、「第2章 疲弊した社会保障制度」では、社会保障制度(年金・医療・介護)の問題点を明らかにし、加えて海外の社会保障制度を紹介している。この部分は興味深い。
 「第3章 変貌する労働市場・雇用システム」では、終身雇用・年功序列企業別組合に新卒一括採用を加えた日本型雇用システムの変遷と崩壊の過程を振り返り、フレキシキュリティという考え方・政策を紹介する。「柔軟な労働市場と就業支援や能力開発などの積極的市場政策の推進と、雇用保険などのセーフティネットの強化」を行う施策だそうだ。
 第4章は少子化対策である。内容的には他の書籍でも指摘されていることが多いが、現金給付による少子化対策効果は小さく、現物給付の充実が必要であることをはっきりと指摘している点が興味深い。現金給付を行う場合にも、2人目・3人目に対してより手厚い給付をすることの効果を指摘しており、「かつての児童手当の方が好ましい」と評価している。
 第5章は財政政策である。社会保険制度の賦課方式から積立方式への移行方法の現実的な提案や、社会保障と経済成長との関係(一般的には社会保障制度は経済成長を鈍化させる)など、具体的な分析・検討の上に、「ボーンの条件」や世代会計の導入などの具体的な提案を行っている。
 「第6章 新たな経済社会システムを目指して」は前章までを振り返って、年金制度、医療制度、雇用システムと積極的労働市場政策の推進、財政運営のあり方、少子化対策とさらには移民受入まで、それぞれの制度改革の具体的で現実的な提案を行っている。
 冒頭で「社会保障・税一体改革素案」を取り上げたが、第6章の内容とどう関わり、どう異なっているのかはわからない。本書で分析・提案された内容についても十分検討の上、提案がされているものと期待したい。マスコミや政治家の目先の欲得や既得権益が横溢した内容でないことを願う。

世代間格差: 人口減少社会を問いなおす (ちくま新書)

世代間格差: 人口減少社会を問いなおす (ちくま新書)

●効率性と公平性のトレードオフを脱却して、経済成長と整合的な社会保障制度を構築することが、世代間格差縮小のための第一歩となる。(P206)
●財政規律として近年、注目されているのが財政運営に関する「ボーンの条件」である。これは、公債残高の対GDP比が上昇した場合、その年の予算編成ではプライマリー・バランスを改善させる財政運営をすれば財政の持続可能性を維持できる、というものである。(P213)
●世代間格差拡大の本質的な問題は、高齢者と若者の間の損得といったことではなく、われわれの経済社会の制度・システムが制度疲労を起こしており、持続可能性が失われつつあるということにある。(P263)