とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

銃・病原菌・鉄

 先日、「中国化する日本」で楽しい日本史を読んだ。同様の期待を持って世界史を読みたいと本書を手に取った。本書で説明していることはある意味簡単である。700万年前、人類が誕生して以来、現在の状況にあるのは、大陸の形状などの地理的状況や動植物の種の分布の状況など、環境的要因によるものであるということに尽きる。いわゆる進化論により人類の歴史を説明していく。
 アフリカで誕生した人類は、ユーラシア大陸までは概ね紀元前100万年前まで広がったが、その後は地理的な問題からオーストラリアへは紀元前4万年頃、間氷期ベーリング海峡をアメリカ大陸に渡れたのはようやく紀元前1万2000年頃。紀元前1万年頃には南アメリカの最南端にたどりついた。
 しかし、そこからの発展の違いは何が要因となっているのか。一つは、栽培可能な植物の原産種の分布が偏っていた。家畜になり得る動物の原産種の分布も偏っていた。メソポタミアの肥沃三日月地帯には栽培に適した植物種が麦類など多くあったのに対して、アメリカ大陸にはトウモロコシ位しかなかった。馬や牛などの飼育しやすい動物もユーラシア大陸には多くいたが、アメリカ大陸にはラマ位しかいなかった。
 これらの自然的要因が農耕し定住する社会を生みだした。さらに地理的要因が拍車をかける。緯度が同じ方向への文化伝播は早く進むのに対して、緯度が異なる方向への伝播は気温の違い等から遅くなってしまう。東西に長いユーラシア大陸と南北に長いアフリカ大陸やアメリカ大陸では、農耕文化の伝播が決定的に異なる。アメリカ大陸は南北が海峡で分かれ、アフリカ大陸の赤道直下の厳しい気候と砂漠地帯はついに農耕文化が越えることはなかった。
 家畜と共に暮らす生活は感染性の病原菌を生みだし、早くから家畜生活を始めた民族は免疫力も養った。これに対して、家畜を飼わない民族は病原菌に対する免疫がない。アメリカ先住民がいともあっさりとヨーロッパから渡ってスペイン人たちに敗北し絶滅していったのは、ひとえにこの病原菌のせいである。
 また、文字の発明は非常に限られた地域でしか生まれなかった。最初の文字はシュメール人が発明した。それ以外にも文字が発明された地域はあるが、アメリカ大陸やオーストラリアでは発明されなかった。ユーラシア大陸シュメール人の文字が東西方向にいちはやく伝播していった。
 定住社会は政治形態もより複雑かつ高度な社会を作っていく。中国とヨーロッパの技術発展の違いは、統一的な社会だったか、分裂した社会だったかの違いだという。それは地理的な一体性が原因となる。中程度の地理的な結びつきだったヨーロッパはもっとも技術革新が起こりやすい環境にあった。
 どこまで本当か、最後の話題などは少しこじつけっぽい気がしないでもないが、とにかく現在の文化や技術の発展の違いを、人種的要因ではなく、あくまで環境的要因から説明していく。その一貫した姿勢は見事とさえ言える。
 惜しむらくは長過ぎることが欠点。結局はけっして多くはない要因を何度も繰り返しては説明を続けていくので、次第に飽きてくる。最後はかなりの速度で読み飛ばしてしまった。もう少しコンパクトに書けるのではないか。内容は私の期待とは違ったが、いかにもアメリカ人が書いた歴史科学書である。

●読み書きのできたスペイン側は、人間の行動や歴史について膨大な知識を継承していた。それとは対照的に、読み書きのできなかったアタワルバ側は、スペイン人自体に関する知識を持ち合わせていなかったし、海外からの侵略者についての経験も持ち合わせていなかった。それまでの人類の歴史で、どこかの民族がどこかの土地で同じような脅威にさらされたことについて聞いたこともなければ読んだこともなかった。この経験の差が、ピサロに罠を仕掛けさせ、アタワルバをそこへ嵌り込ませたのである。(上P146)
●植物栽培と家畜飼育の開始は、より多くの食料が手に入るようになることを意味した。そしてそれは、人口が超密化することを意味した。植物栽培と家畜飼育の結果として生まれる余剰食料の存在、また地域によってはそれを食べる動物の存在が、定住的で、集権的であり、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会誕生の前提条件だったのである。したがって、栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、帝国という政治形態がユーラシア大陸で最初に出現したことの根本的要因である。(上P162)
第二次世界大戦までは、負傷して死亡する兵士よりも、戦場でかかった病気で死亡する兵士のほうが多かった。戦史は、偉大な将軍を褒めたたえているが、過去の戦争で勝利したのは、かならずしももっとも優れた将軍や武器を持った側ではなかった。過去の戦争において勝利できたのは、たちの悪い病原菌に対して免疫を持っていて、免疫のない相手側にその病気をうつすことができた側である。(上P361)
●オーストラリアで社会を作りだしたのは、アボリジニである。もちろん、彼らが作りだした社会は、文字を持ち、食料を生産できる産業民主社会ではなかった。しかし、そうならなかったのは、オーストラリアという環境の当然の帰結だったのである。(下P208)
●技術の発展は、地理的な結びつきからプラスの影響とマイナスの影響を受けたことがわかる。その結果、時間的に長い尺度で評価した場合、技術は、地理的な結びつきが強すぎたところでもなく、弱すぎたところでもなく、中程度のところでもっとも進化のスピードが速かったと思われる。過去1000年の技術の発展でいえば、中国は地理的な結びつきがもっとも強かったところの例であり、ヨーロッパは中程度だったところの例であり、インド亜大陸はもっとも弱かったところの例だということだろう。(下P386)