とんま天狗は雲の上

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政府は必ず嘘をつく

 これまで筆者の堤未果はアメリカの貧困層を扱ったルポルタージュを多く書いてきた。興味はあったが、直接には日本と関係ないことでもあり、これまで読んだことがなかった。本書はfujiponさんが「琥珀色の戯れ言:政府は必ず嘘をつく」で絶賛しており、興味を持って購入した。購入するに値する良書だった。
 タイトルの「政府は必ず嘘をつく」は、歴史学者のハワード・ジン氏の言葉から取られているが、言葉が生々し過ぎて損をしている。「9.11以降の<コーポラティズム>による世界制覇」とでも題すればよかったか。または、「9.11以降のアメリカに重ねて3.11以降の日本を見る」。
 この場合の<コーポラティブ>とは、「経済界と政治との癒着」を表す言葉として使われている。9.11以降のアメリカで進行する<コーポラティズム>が世界に浸透してきている。ユーゴスラヴィア革命しかり、「アラブの春」しかり。現在進行中のシリア情勢も同様。アルジャジーラは既に敵の手に落ちている。そして3.11以降の日本。「原子力村」はまさに強力な<コーポラティブ>の存在を示している。そして「TPP」。
 そもそもいまや、アメリカ政治の民主党対共和党という構図自体が作られた虚像であり、OWSデモも裏で政府に操られていたと言う。さらに、1%の人々の手先としてのIMFと世界銀行。IAEAはもちろんWHOですら例外でない。リビア革命の作られた現実。ニューオーリンズの復興特区で儲けた人々。「落ちこぼれゼロ法」による思考停止し分断された国民の生産。ほとんどジョージ・オーウェルの「1984」の世界かと見まがうような衝撃の事実がこれでもかと書かれている。
 絵空事でも被害妄想でもない。たぶんかなりの部分で、意識・無意識の区別なく、実態は筆者やインタビュイーたちが指摘する状況にあるのだろうと思う。震撼とする。本書でも繰り返し書かれているが、我々は自分の足で情報を集め、自分の頭で考えなければいけない。そしてそうして理解したことを発信し、つながっていかなければいけない。まだ間に合う。そう思いたい。

●9.11以降のアメリカの10年を見れば、大衆がいかにたやすくコントロールされるものかが、よくわかります。国民がテロへの恐怖で思考停止している間に戦争は拡大し、自由の国は“警察国家”になってしまった。そこで気づけばよかったのに、今度は『チェンジ』というスローガンに酔って、再び政治から目を離したのです。その結果、貧困率は過去最大になり、1%が支配する社会が完成した。(P89)
歴史学者のハワード・ジンイラク戦争真っ只中の学生たちに繰り返し伝えた「政府や権力者は嘘をつくものです」という言葉。それは単なる政府批判ではなく、未来を創る際の選択肢を他人任せにするなという、力強いメッセージだ。(P91)
●政治や経済、金融、軍事において、常に公平な国際機関など存在しない。「規制緩和」「緊縮財政」「民営化」というIMFの処方箋のベースは、1980年代末にIMFと世界銀行、アメリカ財務省の間で作られた暗黙の合意でもある<ワシントン・コンセンサス>だ。(P172)
●「数字で測れない部分に価値を置く人々の、国境を越えた情報の共有と連帯が必要でしょう。・・・<ワシントン・コンセンサス>も<TPP>も<原子力村>も、1%の人間だけが身の丈を超えて富と権力を手にする同じ流れです。だが、そのツケを払わされる99%の庶民が、あちこちでそのことに気づき、怒りの声を上げている。国の形を、主権を取り戻すために、手を結ぶのです。(P179)
●アメリカはグローバリゼーションと<コーポラティズム>の二つによって、国家が内部崩壊したモデルです・・・「多国籍企業にとって、カネで手に入らないものなど何もない。・・・民間も公共も。ひとつの国家でさえも」/規制を取り払う一番手っ取り早い方法は、それを作る機関ごと買ってしまうことだ。だから、アメリカでは多国籍企業は政治を買い、メディアを手に入れ、<コーポラティズム>が社会のあらゆる場所に、市場原理支配を浸透させてきた。(P185)