とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

家族の衰退が招く未来

 家族社会学者の山田昌弘氏と経済学者の塚崎公義氏が、それぞれの立場から、高度成長期、現在までの長期低迷期、そして将来の家族の姿と経済の見通しについて交互に書いている。山田氏のパラサイト・シングルを始めとする家族論と、男女共同参画やワーク・ライフ・バランス論はいろいろな機会に読んできた内容だ。これに対して、磯崎氏の日本経済の将来見通しは、ここまで楽観的なものをこれまで読んだことがなかった。
 一言でいえば、現在の景気低迷は需要の低迷が要因で起きているが、今後、少子高齢化がさらに進むにつれて、供給が減少し、需給が均衡するようになると、日本経済は最後の「黄金時代」を迎える。そしてその後は供給が追い付かずインフレが進行する需要超過期がやってくる。需要超過期にはインフレ対策として緊縮財政が講じられ、インフレ下での増税により財政赤字も縮小し、失業率は大幅に改善し、大変活力のある時代になる、と言う。
 こうしたバラ色の予測だけでなく、政策の失敗により、財政破綻するケースも紹介しているが、メイン・シナリオの方がより現実的であり、当面、大幅な増税社会保障の削減は無理だろうと考える点で、非常に説得力がある。
 昨今、多くの経済学者が日本経済の破綻シナリオを突き付け、増税社会保障制度改革を迫るが、それらが大きな政治的決断や世論の高まりを必要とするだけに、現実的でないことが多い。そしてそれができない日本は崩壊の道しかないのかと悲観的になるが、本書を読むと非常に救われた気になる。
 山田氏と塚崎氏は中学・高校の同級生で、同窓会で偶然再会して本書の企画が実現したという。山田氏との共著ゆえに本書に巡り合えた。同級生・同窓生の偶然を感謝したい。

●離婚というのは、経済的に見れば、高収入の家庭と低収入の家庭で起こりやすいのです。高収入の家庭は、相手に求める基準が高く、・・・離婚に陥りやすい。また、・・・高収入だと十分な慰謝料も払えます。一方、低収入の家庭は、結婚していても仕方がないという理由で離婚が増えます。・・・逆に言えば、多くの家族が中流意識を持ち、家族の経済生活が向上していた高度成長期には、経済的な意味で離婚が生じにくいのです。(P53)
●「夫が1人で家計を支える」という戦後家族モデルから、意識的にも、制度的にも脱却することが大前提です。そうすれば、家族形成力が回復し、各家族の消費マインドも改善、その結果、家族消費需要が上昇し、経済も上昇するという好循環に入るでしょう。(P141)
●女性の経済領域への進出によって、経済が拡大していけば、社会全体のお金も回り経済も活性化するのです。/事実、90年代以降、アメリカの経済の成長は、結局、既婚女性の労働力化により、労働と需要が相互に拡大しあった結果であるという研究報告があります。(P153)
少子高齢化の進展にしたがって、経済が「需要不足期」から「需要均衡期」を経て「需要超過期」に至る・・・/需要不足期とは、現在の状況を指します。・・・こうした期間は、今後数年は続くでしょう。/需要均衡期は・・・特に努力も工夫もしないのに失業者が減り、インフレにもならず、経済がうまくまわる時代です。その後は生産力が需要に追い付かず、インフレ圧力に悩まされ続ける時代です。(P163)