とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

1Q84 Book2

 村上春樹はこの長編をどのように書いていったのだろうか。全体の構想があって書き始めたのか、書いているうちにこれだけの長編になったのか。Book1が刊行された時点で、Book2やBook3はどこまで書かれていたのか。Book2を読みながらそんなことを考えていた。
 Book2はつなぎの巻である。スターウォーズも3部作の2部目は中途半端な感じがつきまとう。全てが新たな展開のBook1、完結のBook3に比べ、どうしても中途半端にならざるを得ない。だが、Book3に続く重要な出来事がBook2には描かれているはず。小説「空気さなぎ」の全容も明らかにされる。天吾と父親との邂逅と顛末。「さきがけ」のリーダーとのやり取り。天吾の前に現れたふかえりはドウタではないのか。天吾と青豆のすれ違い。そして青豆が口に銜えた拳銃の引き金にかかった指に力をこめる。
 すべてはBook3に委ねられた。さあ、これからBook3を読むことにしよう。単行本でBook2まで読んだ読者はBook3刊行までの間、どういう気持ちでいたのか。文庫本まで待ってよかったと思う。

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉前編 (新潮文庫)

●私という存在の中心にあるのは愛だ。私は変わることなく天吾という十歳の少年のことを想い続ける。彼の強さと、聡明さと、優しさを想い続ける。彼はここには存在しない。しかし存在しない肉体は滅びないし、交わされていない約束が破られることもない。(P144)
●そこは彼が失われるべき場所だった。それは彼自身のために用意された、この世ではない場所だった。そして列車が、彼を元の世界に連れ戻すためには、その駅に停車することはもう永遠にないのだ。(P215)
●「じゃ、あなたが残した空白をかわりに埋めるのは誰なんでしょう」/「あんただ」と父親は簡潔に言った。・・・「そんなこときまっているじゃないか。誰かのつくった空白をこの私が埋めてきた。そのかわりに私がつくった空白をあんたが埋めていく。持ち回りのようなものだ」(P234)

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK2〈7月‐9月〉後編 (新潮文庫)

●考えてみれば結局のところ、我々の生きている世界そのものが、巨大なモデルルームみたいなものではないのか。入ってきてそこに腰を下ろし、お茶を飲み、窓の外の風景を眺め、時間が来たら礼を言って出て行く。そこにあるすべての家具は間に合わせのフェイクに過ぎない。窓にかかった月だって紙で作られたはりぼてかもしれない。(P93)
●カクメイはいくぶん尖ったかたちをした考え方であり、ピースはいくぶん丸いかたちをした考え方だという印象しかない。考え方というのはそれぞれにかたちを持ち、色合いを持っている。そして月と同じように満ちたり欠けたりする。(P172)
●真実を知ることのみが、人に正しい力を与えてくれる。それがたとえどのような真実であれ。(P304)