とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

パン屋を襲う

 1981年に書かれた「パン屋襲撃」と1985年の「パン屋再襲撃」にドイツ人イラストレーター、カット・メンシックがイラストを描き、村上春樹がオリジナルに手を入れて絵本風に再発行された本。原作を読んだことがあったかどうか、既に覚えていない。手近にもないのでどこが修正されたのかわからない。
 それでも2作品とも諧謔心があっておしゃれな村上春樹らしい作品。特に「パン屋を襲う」の方は、強盗に入るもワグナーを聞いて代わりにパンを食べさせてもらうという如何にも村上らしい展開で楽しい。が軽すぎるかも。
 それに比べれば、「再びパン屋を襲う」の方が新婚2週間目の夫婦が、突然の空腹に耐えかねて、これは前のパン屋襲撃がしっかり成就しなかったことの呪いだと再襲撃するとところからひねくれていて、村上らしいと言えばこちらの方が村上作品らしいかも。
 でも深夜に営業しているパン屋はなく、代わりにマクドナルドを襲撃してビッグマックを30個せしめる。飲み物代は支払うのが律儀と言うか、村上春樹らしいユーモア。
 軽いエッセイを楽しむように、軽い絵本を楽しむ。強盗すらおしゃれになってしまう。ジョンレノンが死んだ年には発作的にパン屋を襲撃したくなったのか。2013年の今、これが再発行される意味は、やはりそうせざるを得ない暗い空気が流れ出したということだろうか。

パン屋を襲う

パン屋を襲う

●神もマルクスジョン・レノンも、みんな死んだ。とにかく我々は腹を減らせていて、その結果、悪に走ろうとしていた。空腹感が我々をして悪に走らせるのではなく、悪が空腹感をして我々に走らせたのである。なんだかよくわからないけど実存主義風だ。(P11)
●世の中には正しい結果をもたらす正しくない選択もあるし、正しくない結果をもたらす正しい選択もあるということだ。このような不条理性―と言ってもかまわないと思う―を回避するには、我々は実際には何ひとつとして選択してはいないのだという立場をとる必要があるし、おおむね僕はそんな風に考えて暮らしている。起こったことはもう起こったことだし、起こっていないことはまだ起こっていないことなのだ。(P26)