とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

螺鈿迷宮

 「輝天炎上」を読みながら、その前編である「螺鈿迷宮」がどういう内容だったか確認したくなった。最初はパラパラと眺めただけだったが、結局、全て最初から読み返すことになった。面白かった。
 前に感想を書いているので、もう一度書いてもしょうがない。たぶん初見の時の方が素直な驚きや感動が書かれているだろう。再読して思うのは、やはり「本書が海堂作品の中でも最高作品ではないか」という思いだ。
 海堂尊が作り上げる桜宮サーガの中心の一つはもちろん東城大病院だが、もう一つの中心は「碧翠院桜宮病院」だ。二つの中心があってこそ惑星は回り、満ち欠けがある。正円ではなく楕円だからこそ生み出されるドラマは桜宮サーガでも同様だ。そのもう一つの重要な中心である「碧翠院桜宮病院」を描く本書は、桜宮サーガの中でも最大級の出来事であり、本作品が最高作品の一つであるのは当然と言える。
 そしてこの寺院にして病院を切り盛りしてきた桜宮巌雄。彼の存在こそが、桜宮サーガに存在感を与え、真実を告げる。しかし本作品で建物もろとも亡くなってしまう。きっとスターウォーズの騎士たちのように、海堂作品の背後にはいつも桜宮巌雄が寄り添っているはずだ。そして作品に陰と真実を与える。彼が生み出した二人の娘、小百合とすみれのように。
 「輝天炎上」でも二人の消息は結局明らかにはされない。そして天馬青年の未来も。「螺鈿迷宮」の煌めきは今後も多くの作品を生み出しそうだ。次作に期待したい。そしてそのときまた「螺鈿迷宮」を読み直そう。

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

螺鈿迷宮 上 (角川文庫)

●「システムというものは別次元の生命体。個人はシステムの構成要素だから、システムを守るために身を挺する人が現れる。ならばその考え方を裏返して、個人が組織を搾取してもいいはずよ。・・・どのみち個人のモラルでシステムを判断すると、おかしなことになってしまうのよ。だってそのふたつはもともと次元が違うんだから」(上P78)
●「死者の言葉に耳を傾けないと、医療は傲慢になる」(上P119)
●医学とは屍肉を喰らって生き永らえてきた、クソッタレの学問だ。お前にはそこから理解を始めてもらいたい。医学の底の底から、な」(上P130)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

螺鈿迷宮 下 (角川文庫)

●患者の無意味な延命をやめ、積極的に死へと誘導した。すると病院は驚くほどスリムになり、清潔感さえ漂い始めた。ワシはその時、悟った。これこそが、官僚が思い描いている医療の未来像なのだ。善意と向上というドグマを捨て去れば、システム維持は容易い」(下P163)
●「死にたい人を死なせてあげるのと、殺すのは違う。確実に死ぬ人の最期をコントロールすることの、どこが悪いの? 延命だけの生を続けるのは医療の傲慢。どうせ死ぬなら他人の役立つように死ねばいい。(下P174)
●東城大は闇も光に変え、すべて一身に集めようとしている。強欲なことだ。光は集められるが、闇は身の丈しか得られない。光を集め過ぎ、闇との調和が崩れると、いつかどこかで破綻する」・・・「大切なのは比率、割合だよ。光と闇を黄金比に混ぜる、それこそ人生の秘訣さ。その調合ができるのは、真の闇を知る者のみ」(下P188)