とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

世界史の中の資本主義

 「資本主義という謎」の共著者として水野和夫を知った。川島博之はだいぶ前に「食糧自給率の『なぜ?』」「『食糧危機』をあおってはいけない」を読んでなるほどと思った。二人の意外な組み合わせに興味を持って読み始めた。
 二人の他に、昭和シェル石油チーフエコノミストの角和昌浩氏と立命館大学教授・歴史社会学山下範久氏も執筆と対談に参加。最初に水野氏から「資本主義」について、続いて「エネルギー問題」、中でも原油価格の決定要因について角和氏、第3章「食糧問題」は川島氏から、そして第4章「世界システム」について山下氏が執筆。短い終章の後に、四者による対談が掲載されている。
 本書を読むと、最近の食糧価格の乱高下について疑問に感じた川島氏が、水野氏の著作に触れて声をかけ、四者の共同研究に至った経緯のようだ。それぞれの立場で最近の資本主義の変調について書いているが、簡単に言えば、資本主義がモノ・ヒト・カネが過剰な時代になり、金余り現象から投機要因で国際価格が決まる状況=「金融化の局面」になっている。これは新たな時代、新しい社会システムへの移行のサインであるが、まだ将来の姿は見えていない、といったことになるだろうか。原油価格や大豆・トウモロコシ価格の決定過程を歴史を振り返りつつ、現状が不安定で異常な状態であることを実証的に説明をしている。
 「新しいシステムの姿は、まだ見えてきていない」(P231)。東南アジアの小さな新興国が新しい時代の覇権を握ることすらありうる。それほどまでに今後どうなるかわからない。なのでどう備えたらいいかもわからないが、ただ何が起きても驚かないという覚悟だけを持って生きるしかない。
 政治が機能不全を起こすこともそのせいであり仕方がない。だが、常識はまだそこまで変化をしていない。しばらく体制側にはツライ時代が続く。いつか現代を歴史の中で相対的に評価し語る時代が来るだろうか。我々は一つの時代の中でしか生きられないのが残念だ。後世から現代はどう評価されるのか。「あの時代に世界のシステムは変わった」と言われるのだろうか。そんな時代に立ち会っていたいと思うが、たぶん数十年から百数十年先のことだろう。

世界史の中の資本主義: エネルギー、食料、国家はどうなるか

世界史の中の資本主義: エネルギー、食料、国家はどうなるか

●18世紀以前のバブルと現代のバブルを歴史的視野から対比すると、2008年のリーマン・ショックは、経済の中心が移行しつつある中で、先進国側で発生したバブルの崩壊である。これは歴史的な視野で見れば、まだ小規模なものと考えられる。・・・より規模の大きなバブルとその崩壊は、マネー過剰の先進国側ではなく、資本が流入してきた新興国側で発生するものである。・・・おそらく今後、「リーマン・ショック2」というべきバブル崩壊が、現在の新興国の側で発生し、世界経済にリーマン・ショック以上の大きな影響を及ぼすことが予想される。(P42)
●古代から中世、近代と、長く「人口が増え、モノが足りない時代」を生きてきた人類は、今初めて、先人たちがかつて一度も経験したことがない「人口が増えず、モノが過剰の時代」に突入している。我々はこの、あらゆるものが過剰となった時代に、社会の構成員が等しく仕事を持ち、幸せを感じるシステムを考えて行かなければならない。その新しいシステムを模索する時代が「長い21世紀」である。(P175)
●生産活動が投資先としての魅力を失うと、投資は金融商品に向かう。金融市場では価格に意図的な落差を生じさせて、利益を上げる機会を投資家に提供し、市場に資金を呼び込むことができる。そこに局所的な過剰変動性が生じ、それが金融セクター以外の生産活動にも影響するようになって、社会そのものが不安定化する。アリギによれば、金融化の進行による社会の不安定化が、資本の移動・拡散や権力構造の変化をもたらし、これまでとは異なる新しい秩序に結びついていく。現在の世界経済は、この金融化の局面にあるとみてほぼ間違いないだろう。(P186)
●現代世界では、経済的には資本主義が中心だが、政治的には民主主義が主流になっている。ところが資本主義と民主主義の間には、根本的な緊張関係がある。民主主義は平等を指向し、資本主義は自由を指向し、結果として格差を許容する。それが両者の間に緊張を生む。(P210)
●かつての日本のように、モノが不足していた時代には、政治の役割は経済を成長させて、モノ不足を解消することでした。政治の争点は、「誰の不足から先に解消するか」で、誰もが政治に期待していたわけです。ところが現代は過剰生産の時代なので、社会の関心も不足の解消ではなく、負担の分配、リスクの分配に向けられるようになっています。原発をどこに建設するのか、可動堰を開くべきか閉じるべきか、年金制度をどう変えるのか、といったことです。しかし不利益の押し付け合いは一人ひとりにとって深刻な問題なので、簡単に合意できません。そこにおいて、政治の機能不全が起きているのだと思います。(P262)