とんま天狗は雲の上

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世界は宗教で動いている

 「ふしぎなキリスト教」の対談者の一人、橋爪大三郎による講義形式の世界の主要宗教の入門書。「世界がわかる宗教社会学入門」という著作もあるそうだが、たぶんそれよりもさらに入門編なのではないか。実際、ビジネスマンを対象に開講された講義をベースにしており、書き出しから受講生への問いと応答という始まりで少し驚かされる。
 これがわかりやすいかどうかは微妙。第一・第二講義はキリスト教で、講義形式で編集されているが、後半の儒教・仏教を扱う第五講義、日本の神道等を説明する第六講義では受講者はほとんど現れず、橋爪氏の講義だけで進む。たぶんページ数がもったいなくなったんだろう。
 基本的に各宗教を説明するというより、そうした宗教的基盤の上で、社会常識や政治・社会制度がどう形作られているかを説明する。これまでの知識から新たに積み重ねるような事柄は少ないが、インドのヒンドゥー教とシク教の違いなどは面白かった。また日本の国家神道日蓮宗なども。
 基本的に入門書であり、それ以上ではない。正直、買って損したという感じ。たぶん世界は宗教だけで動いているわけではない。

世界は宗教で動いてる (光文社新書)

世界は宗教で動いてる (光文社新書)

●奴隷制とは、人間の主人が人間である状況です。人間を人間が所有している。・・・ほんとうはGodが主人であるという考え方は、人間が主人であるべきでないという意味。奴隷にとって、自分の主人を相対化できる。そう思わなければ生きていけないような過酷な運命があった。それが信仰のあり方に反映しているのです。(P55)
●アメリカは、元をただせば、資本主義をやるためでも、民主主義をやるためでもなく、自由な信仰生活のためにつくられたのでした。アメリカの理想が成り立つためには、政府は、どの教会に肩入れしてもいけない。・・・政教分離です。また、・・・憲法にいの一番に書くべきことは、政府は特定の教会を保護したり、特定の教会を弾圧したりしないということ。すなわち、信教の自由です。このようにすれば、アメリカは建国の理想を実現したといえるので、それ以外の政府のサーヴィス、たとえば、社会保障の制度が手薄でも、年金や保険が未整備でも、貧乏人が困窮しても、大した問題ではありません。(P89)
●アメリカでは、誰かがたくさん儲け、ほかのひとがあまり儲からなくても、神の意思だから甘受しなければならない、と考えます。市場には運、不運があるし、いろいろな事情や偶然で儲かる場合も、儲からない場合もある。それを含めて、市場は公正だとする信頼がある。大儲けしたひとは、市場と神によって祝福されたのであって、努力したかどうかとは関係ないと考えるのです。(P120)
●神が「化身」するという考え方が、ヒンドゥー教の根本的な点だと思います。こんな便利な考え方はない。この考え方によれば、どんな宗教もヒンドゥー教になってしまう。たとえば、ヴィシュヌ神の第8番目の化身がブッダだとされています。・・・そこで、ヒンドゥー教の側としては、「ブッダは、ヒンドゥー教のこれこれの神が化身したものだ、知らないのか」と主張する。・・・こういう論法で、由来の異なる信仰がいくつも束になって集まってできたのが、インドの宗教、ヒンドゥー教だと思うのです。・・・ヒンドゥーとは、「インドの」という意味でした。ヒンドゥー教は固定したドグマや内実をもつ宗教ではなく、インドにある宗教すべてのこと、と考えるべきではないか。(P160)
●仏>神 これが仏教のいちばん大事な不等式です。・・・仏とは「覚った人」のことだから、人間でもある。「神より仏が大事」ということは、「神より人間が大事」と言っているに等しいことになる。そういう意味で、仏教は、人間中心主義です。・・・神より人間が大事。これをパラフレーズしてみると、神なんか拝んでいる場合ではない。そんなことをしている暇があったら、自分が修行して、さっさと仏になりなさい、なのです。(P162)