とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

玉村警部補の災難

 筆者が2008年版から2012年版まで(2011年版は除く)の「このミステリーはすごい」に寄稿した短編4編を集めたもの。短編のタイトルは「東京都二十三区内外殺人事件」「青空迷宮」「四兆七千億分の一の憂鬱」「エナメルの証言」。この中で「東京都二十三区内外殺人事件」は前にどこかで読んだことがあると思ったら、「イノセント・ゲリラの祝祭」(文庫版)の中の一エピソードとして組み込まれていたらしい。東京都と神奈川県で異常死体に対する検案対応が全く違うという点を面白く描く。
 「青空迷宮」はTV局のお正月特番とお笑い芸人を扱ったミステリー。「四兆七千億分の一の憂鬱」はDNA鑑定の罠を題材にしたもの。そして「エナメルの証言」は歯科検案のいい加減さを嗤った作品だ。
 いずれも加納警視正が最先端の科学を駆使しつつ、野性の感によりズバズバと真犯人に迫っていく。玉村警部補とのでこぼこコンビ振りや田口医師とのやりとりが軽妙で面白い。真面目な社会的主張をコメディタッチの中にまぶして描く点が海堂尊の真骨頂だ。
 「エナメルの証言」の最後が気になる一文で終わっている。

●四国巡礼のためと称して、数多くの無縁仏がこの島に運び込まれ始めるのは、それから半年後のことになる。(P315)

 これはひょっとして「ケルベロスの肖像」を指しているのだろうか。また楽しみが一つ増えた。

玉村警部補の災難 (『このミス』大賞シリーズ)

玉村警部補の災難 (『このミス』大賞シリーズ)

●「捜査はモニタに張りつき検索かけまくりに変わるのかもな。そうしたらニートの引きこもりを大量雇用すればいい。連中は凝り性だから、丹念に捜査してくれるだろうし、ヒマ人間の余った時間の有効利用につながり、雇用創出、国力増強にもなるし、な」(P133)
●DMAもAiも、ミステリー界では一部専門家の他は未登場ですし」/加納は退屈そうに言った。「最先端の科学や社会情勢を書かずして、いったい何が楽しいんだね、あの連中は?」「そういう分野はSFとか社会派小説と言うんですよ、警視正」(P134)
●「あんたの計画はあまりに完璧すぎた。だから人工的な嘘臭さが残ってしまったんだ」そして言い放つ。「最後は、俺の嗅覚がその不自然さを嗅ぎ当ててしまったというわけさ」白井隆幸はがっくりと首を折った。「そんな非論理的で不確定な要素のために……」「俺は、論理的整合性は尊重するタチなんだが、必ずしも論理が最上だとは、決して思ってはいないもんでね」(P219)