とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

絆の構造

●伝統的な縛りを解き、通念をひとまず無視して、無理に人とつながることをいったん止めてみてはいかがか。自分が生きる上で必要な人々を選択し、自分が納得できるやり方でつきあえるように、人々との絆を再検討してみようというのが、本書の提案である。(P3)

 「まえがき」冒頭の一節に惹き付けられた。新年を向かえ、これまでの人間関係を清算して、新たな、自分にとって心地よい人間関係を再構築したいという誘惑に駆られた。そして本書で知らされるのは、私たちはそれぞれ自分の選択で、本書の表現によれば、オーダーメイドの人間関係を構築しているし、構築してよいということである。同時に、素朴信念に捉われた人間関係に縛られている実態も理解される。
 中でも本書が示すのは、母親と子供の関係である。「愛着」という概念を明確にし、愛着の重要性を評価するものの、それは子供にとって必ずしも母親だけではないことを様々な資料や調査結果を用いて説明をする。
 母性愛を賛美する素朴信念は男性社会ゆえに作られたという話は理解するが、同時に筆者が女性ゆえに見えているものであることも思う。結局、人は、男性/女性、年齢、経験などに縛られており、研究や調査においても同じではないかと感じずにはいられない。
 別にそれでいいのだし、だからと言って本書を低く評価するものではない。客観的に見ることは結局できないのだということは、人間関係を一つ取っても考えても明らかだ。だからこそ、精一杯、自分らしい人間関係を自信を持って、若しくは開き直って、構築していくしかない。「上手に依存していくこと」。これを心に留めて今年一年を精一杯生きていきたい。

絆の構造 依存と自立の心理学 (講談社現代新書)

絆の構造 依存と自立の心理学 (講談社現代新書)

●自立するためには十分に依存すること、自分の存在が他者との関係の中で確認できる状態にあることが必要だといえそうである。したがって、自立とは依存しないことではなく、上手に依存することだといえる。(P34)
●人間は、女性もそして男性も、家事・育児のみという活動では十分な自己実現をはかれないことがわかったのである。したがって、育児休暇を三年まで延ばすなどという政策は人間性を無視したもので誤っている。人間の本質からいって、家事・育児専業も仕事専業もどちらも無理だということから、ライフ・ワーク・バランスという知恵が生まれたことを考えなければならない。(P59)
●人類を含め類人猿では母親になっても育児をするとは限らない、母性本能は疑わしい、母親になることには学習が必要である、母親以外が養育する事例が類人猿に広く見られる、そして、霊長類の雌も育児と生産活動を両立させている、などの事実を見出したのである。/ハーディーは、母親や母性愛を賛美するような素朴信念に迎合するような仮説や理論が優勢になったのは、研究者がほとんど男性であったせいだと指摘している。(P79)
●人は自分にとって重要な他者を自分で選ぶ。人は自分にとって大切な役割・意味を持つとして選んだ人々を構成メンバーとする人間関係の中で暮らしている。・・・人間関係の心的枠組みはそれぞれの人が築いたユニークなものである。・・・人は自分の好みや価値観、あるいは、状況の制約を考慮しながら、自分にとって納得のいく人間関係を自分で設計しているからである。(P150)