とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー批評(66)

 今号の特集は「W杯に夢はあるか?」。巻頭の「今号では、W杯の光だけでなく陰影の部分も色濃くレポートしていく。・・・闇を知れば、光はより眩しく見えるはずである」という編集長の言葉が期待を掻き立てる。そしてその期待に違わぬ内容で読ませてくれる。
 冒頭、クルピのインタビューから面白い。次いで、コートジボワールギリシャ、コロンビアの歴史や政治状況に関するレポートも興味深い。もちろん「エスコバルの悲劇」も振り返る。「ネイマールの源泉」では、サントスFCの若手育成システムについてレポートする。「ブラジルサッカーの暗部」では昨年のコンフェデ・カップ期間中のデモの理由をレポートし、ワールドカップ組織委員会とブラジル・フットボール協会の腐敗を明らかにする。
 他にも、ブラジルで選手育成と代理人業務を行う新興企業「トラフィック」への取材など、様々な視点からの記事が掲載されている。群馬県大泉町をレポートした「ブラジル人 出稼ぎ労働者の夢」はなぜ本誌に掲載されているのだろう。都市計画や社会学関係の雑誌に掲載してもいいテーマだ。
 その他にも、カタールゲート、テレビが演出する偏向報道の指摘、W杯初出場を決めたボスニア・ヘルツェゴビナの内情など興味深い記事が並ぶ。新国立競技場問題や高校サッカー指導の問題を掘り起こす記事はいずれもこれらの問題に係る書籍をベースにした記事だ。
 これら問題意識の高い記事と並んで「僕らはへなちょこフーリガン」ではいつものデコボコ談話がゆるくて心地良い。もちろんページ数に限りのある雑誌では盛り沢山で突っ込み不足なのは仕方がない。でもブラジルW杯に残り半年を切った今の時期に興味のある内容はほとんどカバーしている。かなりがんばったと評価したい。

サッカー批評(66) (双葉社スーパームック)

サッカー批評(66) (双葉社スーパームック)

●サントスの海岸ではいつでもボールを蹴ることができる。ここの砂の質は固いのが特徴だ。きちんとボールを扱う技術が必要となってくる。それがサントスFCから優れた選手が出てくる理由の一つだろう。(P030)
●デモ隊は、ワールドカップの開催そのものに反対しているのではない。ブラジルがFIFAの要求に唯々諾々と従い、莫大な費用を投じて分不相応に贅沢なスタジアムを建設させられ、その一方で、これまでないがしろにされてきた公共サービスの質が一向に向上しないことに反発して、「我々にもFIFA基準の健康、教育、公共交通サービスを」と訴えたのである。(P036)
●思うに内戦中にスポーツ選手は各共和国の広告塔にされてきた。ラジャはそのことに疲れてしまっていたようだ。・・・旧ユーゴに属した国々でナショナリズムがますます先鋭化する現在、そんなに多くはいないが、「自分はまだ(融和していた頃の)ユーゴスラビア人としての矜持を持っている」というアスリートも存在する。(P065)
●これは昨年9月にNHK-BSで放送されたドキュメンタリー「W杯予選の最も熱い日」の一コマだ。・・・このドキュメンタリーは、全編に渡って視聴者をミスリードする誤訳と編集、ナレーションで塗りたくられていた。予選順位がほぼ確定し、両国でも関心度の低い試合なのに、ひたすら民族対立を軸に煽り続けたのだ。(P070)
●やはり本田恐るべしですね。12歳、つまりフランス・ワールドカップのころでしょ。あの時代にタイムスリップして、あのころの自分に「おい、15年後のミランの10番、日本人だぞ」と言っても絶対に信じてくれないでしょうね。/フリットサビチェビッチ、ボバン、ルイ・コスタ……あの時代の10番神話の絶大さを思えば、まず「パルマの10番の日本人」だって信じないだろうな。(P119)