とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか

 図書館で受け取ったとき、その厚さに驚いた。全536ページ。だが、実は本文はこのうちの354ページで、残りの182ページは注記と参考文献リストになっている。もちろん注記は字も小さく、引用文や詳細な解説がほとんどでとてもじゃないが全部は読めない。本文も引用が多く、また難しい経済学の数式や図表も多い。だが大丈夫。先に「成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか」を読んでおけば、筆者の主張は理解できる。
 「長い16世紀」や「利子率革命」、「海の国と陸の国」など筆者の主張の多くは、カール・シュミットブローデルら先人の思想に拠っており、「長い16世紀」における宗教改革ボリビア銀山の発見、ローマ劫掠などを、近年の9.11(米国同時多発テロ事件)や3.11(福島第一原発事故)、9.15(リーマンショック)などと照らし合わせて、現代はどういう時代か、どこへ向かっているかなど明らかにしていく。
 福島原発事故の後、「時代が変わる」という言葉が多く聞かれたし、私もそう感じた。だが「どう変わるのか」と問われて何も答えることができなかった。本書はリーマン・ショック前に書き始め、書き終えようとした矢先に東日本大震災福島原発事故が起こったそうだ。それでありながら、まるで予見していたかのような内容となっている。もちろん多くの部分を書き足しただろうが、それでもなお、筆者はそれ以前から時代の変化を予見していた。
 成長神話が崩壊し、「成長」自身が「収縮」をもたらす時代。「近代」が「反近代」を招き寄せる時代。「21世紀は共存の時代」というビジョンは示すものの、それがどういうものかまでは示すことはない。グローバル資本主義を解体する21世紀版『リヴァイアサン』はまだその姿を明らかにしていない。今はまだ「長い21世紀」の半ばあたり。「長い16世紀」の前の中世は必ずしも暗黒の時代ではなかったという論評を読んだことがある。「長い21世紀」の後の成熟した共生の時代はどんな世界になっているだろうか。もちろん私自身は新しい時代を見ることはかなわないが、幸福で安楽な時代であってほしい。そのためにわれわれは今何ができるだろうか。アベノミクスは近代の終焉の到来を早める政策であろうこともまた本書では予見されている。

終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか

終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか

●近代とは、技術進歩によって経済成長をするということを皆が信じて疑うことがなかった時代だが、9.15や9.11以降、成長しようとすればするほど、一方で貧しくなる世界がある。近代の原理に忠実であろうとすればするほど、反近代を招来させることになった。(P4)
●景気回復に生活水準の改善を期待すること自体、もはや幻想なのである。今後も景気動向指数を基準に景気を判断すれば、新興国の近代化で海外景気が良い状況が続くうちは、日本の景気が不況に陥る可能性は少ないであろう。しかし、家計に景気が良いかと尋ねれば、暮らし向きは所得減と超低金利政策の長期化、エネルギー価格の高騰による消費者物価の上昇で、「ゆとりがない」と答える人が増えることになる。(P72)
●バブルの生成と崩壊後の日米を比較すると、経済現象や社会現象において、米国が日本に10〜19年遅れて追随している。バブル崩壊のプロセスにおいて日本が欧米に先行しているのは、日本がバブル生成において先行したからである。日本のバブルが欧米に先駆けて生成したのは、日本が他の先進国に比べて早く成熟化し、先に十分な利潤が得られる投資機会がなくなったからである。(P146)
●「バブルなくして利潤なし」の資本主義経済は、社会生活を崩壊させることになる。バブルが繰り返し生じるのは、「大きなバブルの物語」が支配している中で、中間層にバブルが依存してでも「成長」を望む潜在意識があるからであり、その結果、国の借金が増えるだけであれば、現在の社会・経済システムを支えようとするインセンティブは働かなくなるからである。(P280)
●21世紀は、経済的にみればゼロ成長の時代であり、後半になると「グローバル資本帝国」解体の時代となるであろう。17世紀のホッブズが『リヴァイアサン』で帝国を解体させたように、21世紀版『リヴァイアサン』の登場で「グローバル資本帝国」を解体させないと、政治的・社会的な安定状態は実現しない。(P342)