とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

だれでもわかる居酒屋サッカー論

 「サッカー批評」を毎号購読している。巻末のプレゼント・コーナーにも毎号応募している。そして先月、本書が当選しましたと送られてきた。あれ、応募したっけ。他の本なら覚えがあるけど。なんて思いつつ、本書を読みだした。
 筆者は清水英斗。「サッカー批評」でも時々執筆者として名前を見ることがあるけれど、深くは知らない。でも読み始めたら面白い。タイトルから少しマニアックなサッカー談義と思っていたが、確かに内容的にはそうなのだが、けっこう深くてかつ読み易い。
 日本代表やチャンピオンズリーグの対戦を取り上げ、批評していくのだが、視点が総花的でなく、それぞれテーマを絞り、論じている。中でも最初の、2014年アジア杯ヨルダン戦の敗戦から、CKのマンマーク守備における城壁の役割をする選手の重要性と選手起用に係るメリット・デメリットの解説に思わず納得してしまった。これまで私はセットプレー時の守備の役割について、ここまで理解していなかった。たぶんサッカーを競技としてプレーしてきた人なら当たり前のことなんだろうけど、私がプレーしていたのはずいぶん昔のことだし、当時、こうしたことを教えてもらった覚えがない。でも言われてみればなるほど。遠藤のアリバイ守備とはこういうことを言っているのか。
 もちろん遠藤は他に代えがたい選手として評価している章もあるし、結局、選手起用によるメリット・デメリットを相手チームを勘案しながら選択していくことが監督の仕事なんだろう。他にも、バルセロナをチームとして再構築すべき時期に来ていること、シュートは打つのが大事ではなく、打つ準備を常にしておくことが大事であること。同時に捨てる判断も重要なこと。さらには日本サッカーの到達点とさらなる発展に求められることなど、楽しく気楽に論じている。もちろん責任のない立場からの居酒屋談義だ。でもそれだからこそ面白い。以外に真実に迫っている気がする。
 各章の間に入る意外なメンバーとの対談も面白い。ちょんまげ姿の代表サポーター「ツン」さんの次の言葉も心に残った。

●サポーターとボランティアってすごく似ているんですよ。だって両方お金もらえないじゃないですか。もっと言うと自己満足なんですよ。だってサポーターがいなくても試合はできるじゃないですか。ボランティアがいなかったらいなかったで、行政がやるじゃないですか。自己満足なんですけど、その中で楽しみを見つけることが一番。継続するためには楽しむことが大事。(P244)

●遠藤のポジションは、コーナーキックの守備における城壁の役割を果たす。彼はコーナーキックのとき、他の選手と違い、マークする選手を持っていない。そしてボールだけに集中し、とにかく入ってきたボールを片っ端から跳ね返す。そのために立っている。・・・ところがカナダ戦とヨルダン戦の2失点において、遠藤はボールに触れないどころか、ほとんどボールに反応していない。・・・本田の欠場が大きいのはこういう要素だ。決定力があり、中盤を機能させることができ、しかもセットプレーでは強固な城壁になる。(P18)
●2008年からグアルディオラティト・ビラノバが作り上げたチームのサイクルは終わった。チームは生き物だ。いつまでも同じ鮮度を保つことはできない。放っておけば賞味期限がきて腐るのは当たり前のことだ。・・・今こそ前向きな破壊をしなければならない。2008年に彼ら自身がロナウジーニョやデコ、エトーを放出し、ライカールトの黄金チームを破壊したように、新しい出発を果たすためには、現行のチームを一度壊して再構築する必要がある。(P82)
●本当に重要なのは、何でもかんでもシュートを打つことではない。もっと具体的に言えば、シュートを打てる位置に常にボールを置こうと意識したトラップをすること。すなわち『結果』どうこうではなく、『準備』をしているか否かが肝要。そこから先の判断として、実際にシュートを打つか打たないかは本人次第でいい。状況に合わなければ判断を捨てても構わない。(P158)
●「ワールドカップ優勝」という言葉が影響しているのか、ブラジル戦に限らず、最近は自分にできないプレーまでやろうとして空回りする選手も目立つようになった。・・・高すぎる目標と現実の乖離は、試合で失敗をするたびに「こんなんじゃダメだ」と自身を焦られ、個人プレーに走らせる。その結果、できないプレーを遮二無二やろうとして、今までできていたプレーさえ発揮できなくなる。完全に悪循環に入っている。(P182)
●ブラジル人のタクシー運転手はこんな言葉を口にした。「日本はイノセントだ」と。なんと的確に表現した単語だろう。日本はまさに『Innocent World』だ。駆け引きを知らない。オンとオフを使い分けられない。夢見がちで現実を直視しない。まさにMr.Childrenだ。/だけどMr.Childrenでなければ、ここ20年の短期間に日本サッカーが急成長を果たすこともなかったとも思う。この一途な信念こそ日本ならではだが、しかし、そろそろ大人になるとき、次のステップを踏むときが来たということかもしれない。(P211)