とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

学校では教えない「社会人のための現代史」

 TVでしたり顔で解説をする池上彰には何となく胡散臭い感じを持っている。あまりにクリアに説明をするので、ステレオタイプで一面的な解説は権力側の意を組んだプロパガンダ、洗脳放送のような気さえする。
 それでこれまで池上彰の著作も読もうという気がしなかったのだが、どこで本書の評判を見たのか。誰の書評だったか、高く本書を評価する文章を読み、一度読んでみるかと図書館で予約した。
 なるほどわかりやすい。もともと東京工業大学での講義を本にしたものだそうだが、大学の講義としてはあまりにわかりやすい。いやこれは小学生向けと言ってもいいんじゃないか。東工大の学生よ、怒れ!
 東西冷戦、ソ連崩壊、台湾と中国、北朝鮮、中東問題、キューバ危機、ベトナム戦争カンボジア問題、天安門事件、中国の経済問題、通貨問題、エネルギー問題、EU、そして9.11とテロ。それぞれの問題と歴史をわかりやく解説する。さすが池上彰。その中には私が知らなかった事実もあったし、一方でそれはあまりに一面的じゃないのと思う解説もある。アフリカ問題や中南米アラブの春など、日本であまり注目されない歴史は見事に無視されている。
 ということで多少の不満もあるが、他であまり取り上げない現代史をわかりやすく解説している点は評価したい。一家に一冊あってもいいかも。でもやはり、あまりにわかりやすい説明には眉に唾を付けて聞いた方がいい。

●台湾は、大陸の中国とは、どのような関係なのか。・・・李登輝総統は、1999年、ドイツのラジオの取材に対し、「両岸関係は特殊な国と国との関係になっており、・・・あえて独立を宣言する必要はない」と発言しました。わざわざ独立を宣言しなくても、台湾は独立している、というわけです。(P63)
カストロ政権が樹立されると、米国は直ちに承認しました。・・・ところがカストロ政権は、・・・米企業の製糖工場や石油精製工場を国有化します。これには米国が激怒。キューバとの貿易を停止します。経済制裁の始まりです。米国によって苦境に立たされた様子を見たソ連は、キューバの砂糖を全量買い付けます。これにより、キューバは急速に接近します。/いまになってみると、建国当初のキューバは、決して社会主義国ではなかったのですが、米国と対立する中でソ連に接近し、結果として社会主義国家になっていきます。(P112)
ベトナムによるカンボジア侵攻は、論議を巻き起こしました。ベトナム軍が進攻しなければ、カンボジア国民の犠牲はさらに増え続けていたことでしょう。ベトナム軍が、これを阻止したことは明らかです。その一方で、カンボジアへの侵攻は、明らかに侵略行為です。「他国の人々を救うため」と称して侵略することが認められるのか、という論議です。つまりは、「人道的介入は認められるのか」との問題になります。(P148)
●蠟小平の指示を受け、江沢民は、若者たちが民主化運動に立ち上がらないように、徹底した「愛国教育」を進めます。愛国教育とはいいましたが、要するに「共産党を愛そう」という運動です。いまの中国があるのは共産党のおかげ。共産党抗日闘争を戦い、人民を解放した。こういう「歴史」を学生に叩き込んだのです。・・・愛国教育は、結果的に「反日教育」になったのです。(P170)
●欧州の戦争は、しばしばドイツとフランスの争いから始まりました。両国の国境付近には石炭産業と、その石炭を利用した鉄鋼業が発展し、この地域の奪い合いが起きていたのです。敗戦で大きな打撃を受けたドイツの経済を立て直すには、石炭と鉄鋼が必要でした。しかし、西ドイツに単独で開発させたのでは、また紛争の種になりかねません。そこで、周辺諸国で共同管理する計画が生まれたのです。こうして誕生したECSC(P223)