とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー日本代表をディープに観戦する25のキーワード

 先に読んだ「だれでもわかる居酒屋サッカー論」が面白かった。W杯前に清水英斗氏の新刊が出た。思わず購入してしまった。
 前作に負けず、本書もまた面白い。いや、面白さは前作に比べれば90%位かな。それでも変に知ったかぶりのサッカー戦術論よりもはるかにサポータ目線で「なるほど」と実感しつつ読める。というサッカーライターに関する対談も載せられている。ライターを語り合ううちに社会論になってしまうのが面白い。
 前作と同様、2013年に行われた実際のゲームを題材に日本代表のサッカーを評論していく。コンフェデ以降、ウルグアイ戦からベルギー戦まで。思えば、コンフェデでイタリア相手にいいゲームをしつつ、結局3連敗。その後ウルグアイ戦に惨敗。グアテマラ戦、ガーナ戦での大迫と柿谷の起用で夢を見始めた途端に、セルビア戦、ベラルーシ戦と無得点で連敗。暗雲に覆われかけた日本代表だったが、その直後に「アジアカップで優勝したサッカーをやるつもりではない」という本田宣言が飛び出した。そして続くオランダ戦、ベルギー戦を1勝1分で乗り切って、新たな希望が見えてきた。
 こう書くとまるでジェットコースターのように日本代表の評価が乱高下している。だが清水英斗氏の評価はあくまで冷静で熱い。遠藤を絶対視する風潮に警鐘を鳴らし、柿谷と岡崎の特長を踏まえた現実的な判断を促し、本田のリーダーシップに感嘆する。
 今回のW杯、マスコミでは前回を上回るベスト8以上の成績も可能だと煽る報道が多くなっているが、私はグループリーグで敗退する可能性の方が高いと予想している。そしてそれを覆すには相当の戦略とコンディショニング調整、そして幸運が不可欠と思っている。その勝利のためには何が必要か。そのヒントと希望が本書には多く綴られている。
 もちろんザッケローニ監督や選手たち、そして原強化委員長始め関係者の面々にはその戦略などが十分意識され練られ、そして着々と実行されていると思うが、それでも最後は運・不運が結果を左右する。代表には精一杯の努力をしてほしいし、結果はどうあれ最後まで応援していきたい。そして本書は代表の奮闘を楽しむだけの多くのポイントが書かれている。本書を読んでW杯を十二分に楽しみたい。

●以前、今野泰幸が、「ヤットさんはこのチームでは絶対的な存在。みんながリスペクトしている」と言っていた。だけど絶対的だろうと何だろうと、誰かが注意しなければならないこともある。このチームには遠藤に意見を言える人がいるのかどうか、心配だ。(P37)
●左サイドの打開というストロングポイントだけ、つまり2011年アジアカップのサッカーのままでは世界で戦えない。・・・引き出しを増やさなければ、ディフェンス戦術に長けた世界のチームに守備の的を絞らせてしまう。・・・アジアカップのサッカーから、ワールドカップのサッカーへ脱皮しなければならない。(P96)
セルビア戦では後半に柿谷を下げて清武を投入し、岡崎を1トップに上げた。いわば岡崎のビルドアップ問題と、柿谷の1トップとしての問題を同時に解決したわけだが、現状のままなら、これがもっとも現実的な落とし所のような気はする。・・・残酷な言い方にはなるが、捨てられないひとは、片付けられない。ここからはザックの整理術に注目しなければならないだろう。(P118)
●どうしてもDFは、可能ならば立ち止まってボールを処理したくなるもの。なぜなら、ボールに寄りながらクリアしようとすれば、動いている分、技術的なミスが出やすくなるからだ。たとえばクロスに対してその場で立ち止まり、ヘディングでクリアしようとしたDFが、その鼻先で相手に入り込まれてゴールを許す場面はすごく多い。逆に岡崎などは、そうやって決めるゴールが得意なストライカーだ。(P169)
●全部やれないヤツを救ってあげるのが編集者というか、たぶん、全部やれないヤツのほうが面白いから。・・・このまま社会がさらに傾いていくなら、求められるのはバランサーじゃなくなるよ。それは歴史が証明する通りで、ひどい時代には凄まじいタレントが出てくるから。(P208)