とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

「オバマの嘘」を知らない日本人

●50年以上アメリカを取材してきた私にとって、いまのアメリカは、まさに一場の夢が消えた、つまり、アメリカというものがなくなってしまったのにも等しい。そして、我々が慣れ親しんできたアメリカの力による安全保障体制はバブルに過ぎなかったのであろうか。(P4)

 日高義樹と言えば、アメリカ在住の長い保守系ジャーナリストという印象だが、その彼が「まえがき」でアメリカに対して、こんなにも怒り嘆いている。アメリカはどうしてしまったのか。超低金利政策の継続など経済的な課題は他の報道等でも聞いているが、「オバマの嘘」という言葉に惹かれ、読み始めた。
 第1章はその経済情勢の分析である。「米・中のバブル崩壊は先送りされる」というタイトルから、先送りの後の安泰も期待するが、「『晴れのち暴風雨』の危機がやってくる」という小見出しのとおり、時代は経済的破局に次第に近付いている。
 しかし日高氏の得意とするところは経済ではない。第2章以降は軍事政策の取材と分析が主な内容となっていく。その中で筆者が最も怒り、また重要視しているのが、ロシアのウクライナ侵攻に対して最後まで何もしなかったアメリカの態度である。「オバマ大統領の平和外交は完敗した」という小見出しのとおり、軍事的な対応をしなかったオバマ大統領に対して、ヨーロッパの各国は失望し、中近東の諸国は新たな外交戦略を描いている。それが「イスラム国」の侵攻やイスラエルのガザ爆撃につながっているのかどうかまでは本書には書かれていない。本書執筆時にはまだ勃発していなかったのだろうが、今頃はそう考えているに違いない。
 そして第4章以降、オバマ大統領批判に移っていく。だが、日高氏の交友がもっぱら共和党関係者に片寄っているので、本当のところはわからない。筆者によれば、アメリカ国民、なかでも白人たちはオバマに怒り、心が離れていっているそうだ。だがそれだけではない。共和党内でも過激なティーパーティと穏健な議員たちの間で内戦が起きていると言う。さらに共和党だけでなく民主党内でも。「白人が少数民族にな」り、「ワシントンの政治文化が変わる」と嘆くが、これはまさに日高氏の立ち位置を示している感想かもしれない。そしてヨーロッパもウクライナ問題をきっかけにアメリカから離れていこうとしている。日本はいつまでもアメリカ頼りでいては安全保障上も危ない、ということを主張するのだが、その中では「日本も核武装しろ」と主張しており、まことに剣呑だ。
 著者略歴を見ると、日高氏は1935年の生まれ。今年で79歳だ。戦後をアメリカとともに生きてきた老人には現在のアメリカの状況は歯痒いのだろう。だが、共和党関係者が提言する政策を講じていればアメリカの危機もなかった、とは思えない。時代がオバマを生んだと考える方が正しいのではないか。もちろんアメリカは変わりつつある。日本も自立を求められている。その中で、いつまでもアメリカ幻想に浸っているわけにはいかない。少なくとも、オバマ大統領批判をしていればいいということではないだろう。
 多分、軍事力で世界をコントロールできる時代ではなくなってきている。そして経済力でも。日高氏の取材と分析は現在のアメリカの一側面としても、世界情勢はアメリカの動向だけでは描けなくなっている。そんな時代に僕らは直面しているのではないか。

●中国は金を集め、ドルを使ってアメリカの資産を買い集めている。つまり貿易で稼いだアメリカのドルが安くなったので、そのドルを叩き返して代わりに金と資産を奪い取っていることになる。/中国政府は金融体制の崩壊という、きわめて難しい事態を阻止するために、人民元の基本をドルから、金やアメリカの資産に代えることによって、新しいシステムをつくり上げようとしている。(P36)
●ロシアによるウクライナ侵攻についての誤解の一つは、ロシアが依然として大国であると見ていることだ。ソビエトは確かに冷戦時代、アメリカに対抗する超大国だった。しかし冷戦に敗れ、ソビエト連邦に組み込まれていた多くの共和国が解き放たれた。ロシアでは人口が減り続け、間もなく一億人を割り込むのは必至であると見られている。経済全体でいえば・・・小国とされているイタリアとほぼ並ぶ程度である。(P78)
●アメリカは「アメリカの力で守る」と約束してきたウクライナを侵略者のロシアに投げ与えてしまった。冷静に考えれば日本も同じ命運に陥る危険が高まっている。・・・原爆の惨禍を経験した日本の人々は、現実から目をそむけて「核兵器はすべて反対、戦争より平和」と言い続けているが、そう言ってこられたのは、アメリカの意志と力によって守られていたからである。アメリカがその意志を失いつつあるなかで、戦争と破壊の脅威が日本に迫っている。(P134)
●ヨーロッパの人々はオバマ大統領の指導力のなさにハラを立てている。・・・ドイツのガウク大統領は、頼りにならなくなったアメリカに代わって、ドイツが国際社会の責任を負うべきだと主張しているように思えてならない。/このようなドイツの姿勢は、これからヨーロッパ全体を動かしていくのではないだろうか。ドイツが主導的な役割を果たし、ヨーロッパ全体がアメリカ離れを起こすと思われる。(P224)