とんま天狗は雲の上

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図解 使えるマクロ経済学

 菅原晃氏の本を読むのは3冊目。前著「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」も経済学の知識をわかりやすく説明するものだったが、本書では見開きの左に本文、右にイラストの入った図表を並べ、よりわかりやすい構成になっている。本棚に一冊置いておけば、参考書として利用できる。いかにも高校教師らしく、いかにわかりやすく伝えるかに腐心している。
 1章「GDPと貿易」、2章「国債と日本経済の行方」では、前著でも説明していた経済学の基礎をもう一度復習する。GDPとは何か。GDP三面等価、ISバランス式について。貿易黒字・赤字の意味。国際収支表の見方。国際金融のトリレンマ。実物取引から資本取引へ。そして国債国債市場、国債と将来負担。金融資産とは何か。財政を巡る誤解。生産性の向上が重要であることなど。
 3章「時代を動かしてきた経済学」では、社会契約思想から始まって、経済学の理論を古典派、新古典派ケインズ革命新古典派統合、マネタリスト、新しい古典派、ニュー・ケインジアンと解説していく。そしてリーマンショック以降の現在へ。
 DSGEモデルを提唱し勝利宣言をした淡水派だったが、リーマンショックの前ではまったく無力。世界の政府や中央銀行は、金融政策や財政政策を総動員したケインズ政策で対応。アベノミクスもその一つとして初動期は成功と評価している。しかしそれも2014年前半までの状況。夏以降は消費増税の影響からなかなか脱却できない状況が続いている。
 しかし本書で解説するのはそこまで。先頃、アメリカが金融緩和の終了を決定。一方、日本はさらなる日銀サプライズ金融緩和を発表。今後の経済状況がどうなるか、大きく注目を集めている。リーマンショック以降は手探りの経済政策。何とか無難なところに落ち着くといいのだけれど、現在の経済学では現在の状況はまだ未知数ということのようだ。それで水野和夫氏の本「資本主義の終焉と歴史の危機」なども関心を集めるのだが、菅原氏には水野氏は経済学的にデタラメと気に入らないようだ。これからの世界経済はいったいどうなっていくんだろう。

図解 使えるマクロ経済学 (図解 2)

図解 使えるマクロ経済学 (図解 2)

●赤字・黒字を問題にするのは、仕出し弁当のおにぎりの具が黒(昆布)か赤(梅干し)かを問題にしているようなもので、完全にナンセンスな話です。大切なのは、弁当(GDP)の大きさ、一人当たりのGDPの大きさ、具を取り巻く95倍の白米(カネ)の動きなのです。(P056)
国債市場は内外の金融機関にとって、もはやなくてはならない市場なのです。さらに、発行する国家側にとってもメリットがあります。巨大なマネーが国債市場に流れ込むことによって、発行した国債は低金利になり、財政資金を低コストで調達できるからです。・・・つまり、「国債は政府の借金=国民の財産」というのは、巨大な国債市場で結びついた、「持ちつ持たれつの構造=運命共同体」を意味するのです。(P086)
●政府の役割は、私有財産制度の保障や、民法などのルール作成、インフラ整備、教育支援、労働環境整備、環境破壊を防ぐシステムにあるとします。・・・また政府は、その時々の「裁量」によって市場に介入するのではなく、「ルール」によって介入すべきとします。市場参加者が、はっきりとルールの下にある将来を予測でき、「個々の経済活動を計画できる」「リスクを最小限にできる」からです。(P214)
●90年代以降、中央銀行の行う金融政策は、貨幣供給量ではなく、名目利子率の操作に基づくようになり、世界の中央銀行で使用するモデルの基礎となっています。・・・このNK-PC曲線を、IS-MPモデルに統合すると、金融政策が失業率とインフレに与える影響を分析できます。NK(IS-MP-PC)モデルは、現代の中央銀行の基本モデルとなります。(P220)
●安倍自民党内閣は、アベノミクスと呼ばれる、大胆な経済政策を打ち出します。その政策は、既存経済学のフル動員と言ってもいい内容です。金融政策は、非伝統的金融政策であるリフレーション理論に基づきます。・・・流動性の罠の下、金利を下げるという伝統的金融政策が使えないので、金融量を拡大し、予想に働きかける政策です。・・・財政政策は、ケインズ理論です。・・・2013年GDPは、名目で1%、実質で1.6%(速報値)成長しました。アベノミクス初動は、成功したのです。(P242)