とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

知の現在と未来

 2013年11月に岩波書店創業百年として開催されたシンポジウムの記録である。テーマは二つ。第1部は「大学、出版、知の未来」。第2部は「資本主義と国家の未来」。第1部では広井良典が基調講演を行い、続いて管啓次郎高橋源一郎、長谷川一が加わってのパネル討論。第2部では柄谷行人による基調講演の後、金子勝國分功一郎堤未果丸川哲史によるパネル討論が行われた。
 こうしたシンポジウム記録本では、それぞれの主張の紹介が主となり、討議でさらに深まるということはあまり期待できない。本書においても、第1部では広井氏による定常社会の提言を受けて、それぞれの立場から話があり、また第2部では柄谷氏によるヘゲモニー国家と帝国主義等に係る歴史認識の話があって経済学、哲学、アメリカ社会、アジア情勢、それぞれの立場から世界情勢・経済情勢に関する意見交換が行われた。
 個々の主張に特に目新しいものがあるわけではないし、同時に専門的に難しすぎてついていけない議論もあったりするが、基本的に現在は未来に向けての大きな変革の時期に当たると訴えている。それぞれ納得できるし、同時に明快な回答や方策があるわけでもない。しかし、ローカル志向や世界のルールへの関心など、大きな流れはそのとおりだと思う。さらにその先。それはやはり来てみないと誰にもわからない。少なくとも、選挙をやったからと言って何も変わらない。個の自立と個々のつながりがこれからの大きなテーマになっていくように思われる。

●「道楽としての研究」・・・モノがあふれて「衣食足った」あるいは「衣食足るべき」定常型社会においては、純粋な知的好奇心、あるいは知的な探究というものが人間にとっての最大の欲求になるし、またそうした欲求は本来的に他者収奪的でも、自然収奪的でもないという意味で、そうなるべきではないか。知というものの最も基本的な価値や可能性というのは、こういうところにあるのではないかと思います。(P40)
●ラップと言われている音楽を担っている若者たち−の多くは、今ローカルを拠点にして活躍しているそうです。彼らは地元を出ない。・・・地元を代表する、高く評価する、これが今のヒップホップの文化の、いわゆるラップと言われる音楽の日本でのメインストリームの考え方だそうです。・・・こんな考え方がなぜ出てきたのか。・・・この国の問題は地方に全て集約されている、と。貧困化、格差、人口減少、高齢化、東京にいると、大都市にいると、見て見ぬ振りができる。地方に行くと露骨です。・・・そのことが実はラップという音楽の根本にある社会に訴えるメッセージと呼応しています。(P71)
●封建制ですから主従関係をもたらす契約が基礎にあります。封主と封臣の一対一の契約が複雑なネットワークを形成し、その内部の微妙なパワーバランスによって社会が成立していたわけです。僕は学生にこれを説明するときによく、封建制はインターネットみたいなものだと言っています。・・・もしかしたら封建制というのは、誰も上から守ってくれなくて、自分で秩序を作って自分の身を守ろうとするときに、どうしても現れてしまう普遍的な形式なのかもしれません。(P118)