とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

シャバはつらいよ

 「難病女子」大野更紗の3冊目の本。処女作の「困ってるひと」は、難病に罹り、通院・入院の末、自力で退院するまでを綴っていた。第2作「さらさらさん」は対談が主だから、本書が処女作の続編となる。退院初日からその後の一人暮らしの状況、そしてホームヘルパーツイッター等でつながった見知らぬ他人との交友、荻上チキとの出会い、東日本大震災の経験など、波乱に満ちた退院生活を綴っている。
 難病の大変さだけなら類似の本はいくらでもあるかもしれない。また、日本の福祉制度の問題点を指摘する本なら掃いて捨てるほどあるだろう。もちろんこうした記述もあり、福祉制度に対して体験して考えた意見や問題意識も書かれているのだが、本書の最大の魅力はほとんど自由に外出もできない難病女子がツイッターなどを通して社会とつながり、多くの人と交流していくところにある。そして本当に多くの人が突然彼女の前に現れ、彼女を助け、去っていく。ボランティアと言ってしまえばそれまでだが、人にとってのつながりの意味などを考えさせられる。
 でも、ゆっくり考えるのは本書を読んでから。読んでいる間は次から次へと様々な難関が現れ、ハートウォームな触れ合いがあり、確実に時間が進み、彼女自身も成長していく姿に強く惹き込まれていく。楽しい。難病女子なのにめちゃくちゃ前向きで明るい。時に孤独を抱えるが、常に先を見て生きていく。自分のことだけじゃなく、日本社会にまで思いを馳せて。
 だからこそ逆に励まされる。がんばろうと思う。難病患者に元気をもらう。そんな不思議なビタミン剤のような本だ。

シャバはつらいよ (一般書)

シャバはつらいよ (一般書)

●この奇怪な病を発病したときから、実は、ずっと考えていることがあります。わたしがかかったこの「難病」は、何かに、似ている気がするのです。そう、何かに、似ている……。/出口のない経済不況、・・・悪化の一途をたどる社会保障・・・あっちゃこっちゃで火の手が上がり、何から手をつけていいかわからないので、とりあえず「対症療法」で時間を稼ぐ。根本的な問題は、とりあえず先延ばしにする。・・・ああ日本列島は、まるで「難病列島」哉。/・・・「立つんだ、ジョー!」といくら励ましたところで、「立てないよ、ジョー!」状態。・・・「難病」は、ジョーの内側を、徐々に蝕んでいます。最初から体力がない。もとから疲れている。いつもしんどい。このような状態で「復活!」「再生!」「改革!」「維新!」など、いかにも無理をしすぎている雰囲気の文字体で無理をすると、グッタリした身体がさらにグッタリとしてきます。(P004)
●「これは、大変な病気だな」/それがなんだか、印象に残った。わたしのことなのだけれども、まるで他人事のように聞こえた。(P088)
●ナミちゃん、なぜ今日、赤の他人のわたしを洋服屋さんに連れていってくれたのだろう。/おかあさんのことが、あったからなのかなあ。/疲れきって、天井を眺めながらぐるぐると考えたが、サッパリわからなかった。/眠気が襲ってきて、薬を飲むと、グッタリと、この夜は眠りについた。/サッパリよくわからない「赤の他人」との謎の出会いは、どんどん増えていくのだった。(P122)
●「ひとりぼっち」ってこういうことか、と生まれてはじめて身に染みた。発病する前は、一人の時間を謳歌しながらも、いざとなったら友達が助けてくれるとか、公的機関が対応してくれるとか、家族に頼ればいいとか、思っていた気がする。・・・けれど、「いざとなったとき」の依存先として頼りにし続けるのは、現実的に無理だと思った。・・・家族をもたないで、「ひとりぼっち」で生きる、というライフスタイルをひねり出さないといけないのかもしれない。/参考になるような事例・前例があるのかどうかGoogleで検索してみたが、ヒットしなかった。/わたし自身が<実例>にならないといけないのかな。(P152)
●病は、人を孤独にします。病の苦痛とは、身体が病理に侵されていくことに耐えることでもあり、その苦痛が「結局、誰にも伝わらない」現実と対峙することでもあります。伝わらないとわかっているけれど、わたしは心のどこかで、あきらめきれないのかもしれません。・・・こうして周囲の景色が見えないまま、終着地点のないマラソンをずっと走り続ければ、何か、わかるのでしょうか。それすら、まだわかりません。「難病」を発症して、この社会の当事者になって。とまどい、考え込んで、答えが出ないことばかりです。/とにかく、これから、探してみなくっちゃと思っています。・・・もうちょっと、生きのびてみようと思います。(P214)