とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

デザインビルドとキールアーチと設計コンペ

 建築屋の端くれのような仕事をしていると、例の新国立競技場のことについて感想などを尋ねられることがある。結局、ザハ案は撤回され、デザインビルド方式でやり直されることになった。それで先日は「設計してから工事なんて手間を踏まなくても、デザインビルド方式で一括して契約した方が早くて安いんじゃないか」なんて言われ、あたふたとした。

 デザインビルド方式で発注するためには、その前に、施設の規模や内容、性能などを細かく規定した性能発注書類を作成する必要があるのだが、そのことまでは普通の人は思い至らない。簡単に説明するためにその時は、「スーパーゼネコンが受注するような大規模な施設であれば可能だが、一般的な建物では導入は難しい」と話してその場はかわしたが、発注書類を作成するためには大手設計事務所などの専門家が関わらなければ簡単にはできない作業だ。

 新国立競技場に関してはもう一つ、安藤忠雄は無責任ではないかと聞かれることがある。「いやあれはデザインコンクールで、審査の段階で工事費まで推測することは困難だったんじゃないかな」と言っても、軽蔑的な表情を浮かべられるのがオチだ。「キールアーチは特殊な工法で、高額な費用がかかるのは審査の段階でわかったはずだ」などと言われるのだが、キールアーチがどういう構造か、今回の騒動があるまで私にはわからなかった。「建築職として知識が足りない」と言われればそのとおりかもしれないが、建築学科を卒業したというだけでは誰も同じじゃないかな。正直言えば、今でも結局どういう構造だったのかわかっていない。

 キールは船の竜骨で、それをひっくり返した構造というのは、言葉を見れば想像できるが、結局、それは一般的なアーチ構造で、特別に特殊な構造というわけではない。ただかなりの距離を飛ばすアーチなので、そのためにはどんな材料でどんな構造(トラス構造とか)でその応力を負担するのだろうか。キールアーチという言葉だけでは全く想像できない。安藤忠雄もたぶんそうだろうし、今回の審査委員の中に構造や建築生産に関する専門家はいなかったようだから、構造から費用を結びつけて考えられる人は結局いなかったんじゃないかな。

 今回行われているデザインビルド方式のための審査委員会には建築生産や構造の専門家も参加している。当たり前だけど。でも彼らが積算の妥当性について審査できるかと言えば、結局、ゼネコンの担当者でなければわからないのではないのか。いや、実際は設計を終え、工事を始めてみて初めてわかるのではないか。それでその時になってまた「なんでこんなに高額の増額変更をするのだ」と言い出すのではないか。いや、たぶんこっそり増額するような気がする。それも仕方ない。デザインビルド方式って結局そういう方法なんだから。