とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

真剣に話しましょう

 小熊英二が10人の有識者と対談する対談集。9本の対談で相手は12人。社会学者の上野千鶴子から古市憲寿高原基彰東浩紀、社会活動家の湯浅誠、世田谷区長の保坂展人と幅広い。だが、相手の考えを引き出すというのではなく、自分の言いたいことを言い、うまくコラボしているものもあれば、自己主張をしているだけのものもある。
 初っ端の古市憲寿との対談は、古市の「絶望の国の幸福な若者たち」を素材に、「全然学術的じゃない」とこき下ろす。それをさらりとかわす古市氏の対応に今時の若者像を見る思いがして好感を持ってしまう。小熊英二に対しては上から目線で「何だこれは?」という印象。
 続く社会学者・高原基彰との対談はうまくサヨク論で噛み合うが、大先輩「上野千鶴子を腑分けする」と題する対談は、小熊英二上野千鶴子をよく勉強していることはわかるが、失礼なまでの突っ込みに、それをうまく受け入れる上野千鶴子がいて、対談が成り立っている。
 どの対談も小熊英二が自身の意見を直截にぶつけて、相手から意見を引き出す感じ。小熊英二が何を考えているかはわかるが、それで却って相手の意見も際立つ。そういう意味では面白いとも言えるが、相手の魅力を十分に引き出しているとは言えないし、小熊英二自身がまったくぶれないところもつまらない。よく勉強し、よく知っているところは驚愕するけど。
 対談相手として興味を持ったのは東浩紀。その現実的な行動力はさすが。
 小熊英二ファンには面白いかもしれない。でも小熊英二の言論で「社会が変わる」とは思えない。デモに積極的に参加して行動派というイメージをもっていたけど、言論的には研究室の中から分析・批評する感じ。現在の政治状況に対する同時代的な意見を聞きたいと思うが、そんなタイプの研究者ではないようだ。

●日本の新自由主義も、日本型管理社会を壊すという点ではサヨク・・・と課題を共有していました。具体的には、自民党再配分システムを壊す、つまり、小泉がいった「自民党をぶっ壊す」というスローガンと合致してしまった。だから「管理社会」からの自由を掲げる「1970年パラダイム」だけでは、日本の新自由主義に対抗できないということですね。(P60)
ウォーラーステインなんかは、国家というサブシステムがあるから逆に格差が広がると言っている。国家という枠があるから途上国と先進国で労賃がこんなに違うということが平気で起こるわけですし、・・・国内に関してすら、・・・政府は税収を公共投資に使い、港湾にしろ道路にしろ資本蓄積に有利になるようにつくってきた。・・・再配分機能が弱る一方、公的資本の注入だけはやり続けているというのが、現状の先進国政府であるわけですから。(P203)
東浩紀/僕はある種の「儀式」を求めている。形式主義者なんだと思います。僕は脱原発というのは「メッセージ」でいいと思っている。・・・いま政治というとすぐ実現性を求められる。・・・でも僕は原発の問題に関しては、「基本なくします」ということをきちんと宣言し、抽象論として共有するということこそ、政治の役割だと思うんですね。(P286)
●70〜80年代であっても、終身雇用が実現できるほどの企業に勤めていた人(は)・・・労働力人口のせいぜい二割くらいのものです。ただそれが、「誰でも手の届くモデル」であるかのように広く思われてきた。・・・実際には、団塊世代でも全員がそうなれたわけではない。必ずしも、「若い世代が割を食った」ということだけではなくて、一時期に社会全体が共有していた夢がさめてしまったということでしょう。/とはいえ、夢であってもモデルがあるのは重要なことで、次のモデルが見えないのが最大の問題であることはその通りです。(P321)