とんま天狗は雲の上

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出生率は未来への利回り

 山下裕介氏の「地方消滅の罠」を読んだ。内容は、2040年までに全国半数の自治体が消滅する可能性があるとする「増田レポート」を批判するもので、レポートに伏流する基本的な思想である「選択と集中」こそ、地方を壊滅させるものだとし、対立概念として「多様性共生」を主張されていた。
 山下氏の主張や、本の中で提案されている施策なども興味深いのだが、自治体消滅の原因である出生率の低下について、「経済と暮らしのバランスを欠いたことが出生率低下の原因である」と書いている点に目を引かれた。「増田レポート」、さらには昨今の政府の政策は、経済成長を最も重要な政策目標として掲げ、黒田日銀総裁のバズーカ施策など一連のアベノミクス政策がとられている。
 「増田レポート」もこうした潮流の中で、地方政策にも「選択と集中」理論を働かせ、地方中核都市等に資源を集中させることで地方の消滅を最小限にとどめるとしているが、山下氏は、それではいったんは地方拠点都市を中心とする人口ダムで人口流出を防げたとしても、次にはさらなる「選択と集中」が求められ、最後は東京一極集中になっていくだけだと批判する。そして、経済中心の地方再生ではなく、暮らしの豊かさに重点を置いた施策展開を主張する。
 その前に読んだ「自治体崩壊」でも、出生率が高いのは都会ではなく、過疎と言われる離島や沖縄県などであることを指摘しているが、それは、出生率は経済力の高さに相関するのではなく、地域の中長期的な安定性が影響していることを如実に物語っている。
 30代男女の非婚率が高い要因も、非正規雇用の者が多く経済力が低いこともあるが、現在的な経済力よりも将来が見通せない中長期的な安定性の欠如の方が大きな要因になっていると思われる。そして子づくりも同様だ。生まれてくる子供を安心して育てられる暮らしが将来とも保証されるかどうか、子供が大人になっても苦労せず生きていけるだろう安定した国や地域であるか、そんなことが子供を出産し育てていくには気になるところだ。
 最近、わが社では出産ラッシュである。それは建築学科へ進学する女性が増えて、女性の新入社員が増えたことが最大の理由だが、わが社の将来性も含めて判断してもらっているとするとうれしいことだ。もっとも、わが社を含む日本自体が不安定化の方向に向かっているような気がする。彼女らの子供たちが幸せに暮らせる社会になるといいのだけれど。安部首相はどう考えているんだろうか。けっしてわが子を戦場に送り出したいと考えている母親はいないと思うのだが。