とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

松葉杖から見える景色

 肉離れをしてすぐに整形外科に行き、何とか家に帰り着いたところまで前回報告した。翌日、朝イチでもう一度整形外科へ行き、松葉杖を借りてきた。翌日はまだ、肉離れを起こした右足を深く曲げることができず、歩いても右足を左足よりも後ろに引くことができない。というより、左足を右足よりも前に出すことができない。1歩で片足分しか前に進めないから、単純に言って通常の半分。実際にはゆっくりと足を進めるから、通常の1/3位のスピードでしか進んでいけない。当然、みんなに次から次へと抜かれていく。どうしようもないからゆっくりと歩く。するといろいろな景色が見えてくる。
 ゆっくりということで言えば、横断歩道は青になって渡り始め、ちょうど渡り終わる直前で歩行者用信号が点滅に変わる。いくつかの道路で試したが、どこもそんな感じ。たぶん80歳位の老人の歩行スピードに合わせて信号の時間が設定してあるのだろう。家の近くの三叉路の信号は、3つの道路の歩行者用信号が左回りに順番に青になっていく。いつもは一つ渡り、歩道を歩いて次の信号に着くころにその信号も青になるので、調子よくクルクルと渡れるのだが、松葉杖では次の横断歩道までたどり着けない。反対周りに渡ればよかった。次の日はそのようにした。
 松葉杖を突いているとみんな親切だ。電車を待っていて、杖が前に並んでいた人の足に触れてしまった。「すいません」と声をかけると、お先にどうぞと譲ってくれた。譲られて、先に優先席に座ったが、譲った方も空いていた優先席に座られた。やはり松葉杖の人がいると、優先席に先に座るのは気が引けるのだろう。ちなみに、松葉杖を突いている間は優先席に座るようにしている。一般席に座ってしまうと、優先席に座るのを遠慮する人の席を一つ奪うことになるから。
 電車を降りてバス停に向かうが、どうしてもみんなに追い付けない。もう出発してしまうかなとゆっくり歩いていたら、私を追い越した人が「バスに乗りますか」と声をかけてくれた。「できれば」と答えたら、バスのステップに乗って出発を遅らせてくれた。すごく恐縮。どうもありがとう。
 翌朝の電車は優先席がボックス席になっていて、駅に着いたときには既にすべて埋まっていた。立たせても悪いので、ボックス席の背もたれの裏側にそっと松葉杖を置いて、背もたれをつかんで立っていた。2日後には肉離れもだいぶよくなって、左足が右足よりもちょうど一足分前に出るようになった。帰りの電車も優先席は埋まっていて、空いたら私の横にいた女性がまっさきに座った。私も松葉杖を置きながら横に座ったら、あっという顔をして申し訳なさそうに頭を下げた。いや別に座れたから大丈夫。本当は安定した姿勢で立っている分には大丈夫なんだけど。揺れるバスはちょっとしんどい。
 3日目に整形外科に行ったら、ふくらはぎを触って、「だいぶやわらかくなってきた」と言われた。回復は意外に早そうだ。昨日は雨だったので、松葉杖を持たず、代わりに傘を持って出社した。当然、誰も優先席を譲ってはくれないけれど、もう大丈夫。わずか3日ほどの松葉杖生活だったが、みんなとても親切だ。先日、マタニティ・マークを付けた女性に対してひどい態度を取る人がいるという話をTVでやっていたが、名古屋ではそんなことはないかな。松葉杖を持っているとハッとする人も多いから、マタニティ・マークに対して微妙な思いを抱くのもわからないではない。優先席を巡って、微妙な気持ちの機微が渦巻いているといった感じか。
 そういえば、愛知県議会で白杖の持ち込みが制限されていた問題で、今日から規則の運用を変更して自由に持ち込めるようにするそうだ。松葉杖は持ち込めるのだろうか。やってみたい気もするが、もう杖を突かなくても歩けるようになったので、残念ながら試すことはできない。