とんま天狗は雲の上

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被災弱者

 筆者は東洋経済新報社の記者である。被災地を取材する中で巡り合った被災者の現状と、彼らを助けるべく奮闘するボランティアやNPO等を多く紹介する。紹介される実態は確かに真実なのだと思うが、どれだけの人々がそうした境遇にいるのかがよくわからない。少なければ行政が対応すべきだし、多いのであればもっと社会問題として取り上げるべきだ。
 在宅被災者が食料や救援物資などの救助から取り残され、その後も十分な住宅修理もできずに取り残されているなんてことは知らなかった。子どもの給食がいつまでも牛乳とパンだけだったことも。また、債務免除の制度が十分使われず、生活再建資金等が借金返済に使われている実態も紹介されている。
 一方で、被災者自身にも何らかの要因があったということも考えられる。中小企業等グループ補助を受けられなかった個人事業者はいずれも商工会議所や商工会に入っておらず、補助金の存在を知らなかったと答えている。「絆」は震災後ではなく日常においてこそ必要だ。
 それにしても、震災被害はまだまだ続いている。集中復興期間は今年で終了するが、その後の支援がどうなるか注目される。復興庁では地元負担を導入する方針といったニュースも流れているが、どうなるだろうか。被災者を見捨てるようなことにならないでほしい。しっかり復興してこそ日本の未来はあると思うのだが、東京五輪憲法改正で浮かれる安倍政権には被災者の悲惨な現状は眼中にないようだ。

被災弱者 (岩波新書)

被災弱者 (岩波新書)

●(行政が)すべての仮設住宅入居世帯が恒久住宅へとスムーズに移行することを求めるのであれば、失業を緩和させる労働施策や入居期限後の所得に応じた家賃補助措置などの住まい方に関する施策を織り交ぜていく必要がある。そうでなければ、みなし仮設の入居期限到来時に、大きな混乱が生じかねない(P44)
●避難所の多くが津波で浸水し、かろうじて残った避難所も被災者であふれかえった。そのため、遅れてたどりついた被災者は避難所に入れてもらえなかった。身内に障害者や要介護者を抱えた被災者の中には、避難所の劣悪な環境に耐えきれずに浸水した自宅に戻った人も少なくなかった。そうした「在宅被災者」は、津波被害を受けた自宅の二階などで電気や水道もない生活を数カ月にわたって余儀なくされた。/在宅被災者には、食料も支援物資も行き届かず、・・・日本赤十字社による「生活家電六点セット」の配布も対象外とされた。(P48)
●震災直後は、学校給食の中身も大きな問題となった。2010年4月下旬の給食開始時の献立は牛乳とパンだけで、その後も1カ月にわたって改善が進まず、6月にレトルトのミートボールが追加された程度だった。・・・沿岸部にあった給食センター津波被災し、子どもの数に見合うだけの食事を提供する能力がないというのが理由だとされたが、あまりにも硬直的な運営に子どもたちへの配慮と柔軟性に欠けるのではないか、と疑問の声も上がった。(P128)
●自宅や工場を失いながら、なぜ多くの債務者が債務免除も受けずにリスケジュールに合意しているのか。その理由について岡本弁護士は、「義援金被災者生活再建支援金、災害弔慰金など・・・本来、残しておいて生活再建に充てるべき資金を目当てに、金融機関が債務免除ではなく、住宅ローンなどの支払い条件変更に被災者を誘導した」というのだ。(P156)
●政府が定めた集中復興期間の終了が一年後に迫る中で、被災地では自立・自助の必要性が唱えられている。もちろん、それが重要であることは確かだが、被災者には寄り添うパートナーも必要だ。ボランティアと行政がうまく連携関係を築くことができれば、被災者が抱える問題の解決にもつながるのではないだろうか。(P201)