とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

孤独の価値

 森博嗣は地元名古屋大学建築学科卒業でそのまま助教授になり、しばらく前まで研究者でもあった。数年前に中部大学で行われた建築学会の大会では森氏が記念講演を行っていた記憶もある。名大建築学科の卒業生にとっては一種のアイドル的存在と言える。年も近い。それで昔から関心はあったが、名大卒の友人にどんな人か聞いても直接知っているという者はいなかった。だが、推理小説は基本的に苦手だ。それでまずは最新刊のエッセイから読んでみることにした。図書館の新刊本コーナーにあったので。
 東日本大震災以降、やたらと「絆」が強調される。作家活動からも隠退し、地方で隠遁生活を送っている森氏はまさに絆を断ち切って、孤独な生活を送っている。そうした実体験に照らし孤独の価値を訴える。孤独感を募らせ、鬱状態や時に自殺を企てる人たちこそが読むべき対象かもしれないが、忙しい日々の中でふっと孤独感を感じることがある私のような者にとっても、孤独の重要性、必要性を改めて感じ、考えるいい機会となった。
 森氏の言うとおりだと思う。孤独な時間をいかに充実感を感じて過ごすか。実践的な方策も提案してくれる。内容も文章もわかりやすい。筋が通ってさすが理系の文章という気もする。でも正直、ちょっとすっきりしすぎている。森氏が書く小説もこんな感じなんだろうか。友人に聞くと、好き嫌いが分かれるみたいだ。私もこれを読んでさらに森氏の作品を読みたくなったかといえばそうも言えない。しばらくはこのまま読まずに迷い続けるのだろうな。この作品自体はとても興味深く、面白く読んだのだが。

孤独の価値 (幻冬舎新書)

孤独の価値 (幻冬舎新書)

●人生には金もさほどいらないし、またそれほど仲間というものも必要ない。一人で暮らしていける。しかし、もし自分の人生を有意義にしたいのならば、それには唯一必要なものがある。それが自分の思想なのである。(P10)
●「寂しさ」が自分にとって「悪い状況」だという感覚は、その後に力を消費することへの恐怖であり、結局は、「疲れる」から・・・という「嫌な予感」から来ているものといえる。/この反対に、「楽しさ」を「良い状況」だと感じるのは、その後にある「リラックス」、つまり脱力にある。それは休息であり・・・「元気」へとつながる効果がある。それが嬉しい、ということになる。/こうしてみると、やはり、人間の感情を支配しているものが、生と死であることを再認識せざるをえない。(P73)
●力を合わせみんなで成し遂げることが美しい。感動とは、みんなで一緒に作るものだ。・・・このような洗脳から生み出されるのは、「孤独を恐れ、人とつながる感動に飢えた人々」であり、これはすなわち、「大量生産された感動」を買ってくれる「良い消費者」にほかならない。企業はこんな大衆を望んでいる。社会は、こんなふうにして、消費者というヒナを飼育して、利益を得ているのだ。いうなれば、「家畜」である。(P80)
●人間にとって孤独というものは、非常に価値のある状態である。これは・・・人間だけにある高尚な感覚といえる。・・・現代人は、あまりにも他者とつながりたがっている。・・・つながりすぎの肥満が、身動きのできない思考や行動の原因になっていることに気づくべきである。ときどきは、断食でもしてダイエットした方が健康にも良い。つまり、ときどき孤独になった方が健康的だし、思考や行動も軽やかになる。(P127)
●孤独を受け入れることは、つまりは、自由になることでもある。・・・愛情も友情も、楽しいときもあるかもしれないが、確実に貴方を縛るものだ。つまりは、「絆」である。絆というのは、家畜が逃げないように脚を縛っておく縄のことだ。人間に飼われている家畜は、孤独ではないが、自由にどこへでも行けるわけではない。逆に、絆が切れれば、孤独と自由が手に入る。(P163)