とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

金融世界大戦

 「田中宇の国際ニュース解説」は毎回読んでいる。ただし無料配信だけだ。本書は有料配信分も含めてサイトに公表された分析記事をまとめたものだ。そのため重複した記述も多く、その点ではやや読みにくいが、マスメディアが書かない、アメリカ寄りでない、客観的な国際情勢が明確に記述されている、ように思う。
 もちろん田中宇氏は陰謀論者だという指摘も多くされているのは知っている。本書でもオバマ大統領やアメリカの歴代の政権のうちのいくつかは「隠れ多極主義者」であり、今でも、多極主義と米英中心主義の抗争が続いているという覇権論が第2章で展開されている。それが事実かどうかは問題ではない。それよりもいつまでも続くQE政策。何より米国追従一辺倒で自滅的なアベノミクスが続けられる日本の金融政策がいつまで保ち続けることができるのか。経済情勢の行く末が心配だ。
 本書の中では、アメリカの金融覇権は数年のうちに破綻し、中国やロシアを中心とする多極型覇権体制に移行するという将来的な見通しが描かれつつ、ではいつアメリカの金融破綻が起きるのかという点については明らかにされていない。
 そしてそれに関わる重要な状況として書かれているのが「世界金融大戦」だ。それは既に昨年11月のOPAC総会で宣戦布告されていると田中氏は言う。先日の「田中宇の国際ニュース解説」では、先月18日から開催されたサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムでインドとサウジアラビアがロシアとの経済軍事関係の強化に関する国際協定を締結したという記事が紹介されていた。本書で指摘するロシアとサウジの接近を証明する動きの一つだ。
 個人的には国際関係などどうでもいい。関心は自分の将来が安心して安楽に生活できるかだ。退職を間近に控えると退職金の投資先も気になる。そう考えると国際金融情勢は人事ではない。今の日本政府の方針が安心を保証するものとは全くもって思えない。「田中宇の国際ニュース解説」も読みつつ、自分のことは自分で決めていかなくてはいけない。どうせ死ぬ運命だ。どんな形で死のうが関係ないけど・・・と自暴自棄に陥りそうなほど、不安な毎日である。今の日本のことだ。

●日米当局は、QEがデフレを解消し、景気をテコ入れすると喧伝しているが、実のところQEは米国中心の国際金融システムの延命を狙った債券金利の引き下げ策であり、デフレや不景気は、QEによってむしろ長期化する。(P004)
フランス革命を発端に、世界各地で起きた国民国家革命は、人々を、喜んで国家のために金を出し、国土防衛戦争のために命を投げ出させる「国民」という名のカルト信者に仕立てた。・・・王侯貴族は、自分たちが辞めたくないので立憲君主制国民国家制を抱き合わせる形にした。また「国民」を形成するほどの結束力が人々の間になかった中国やロシアなどでは・・・「共産主義の思想」を実現するという共同幻想を軸に「国民」に代わりに「人民」の自覚を持たせ・・・「社会主義国」が作られた。(P080)
●中国の覇権戦略は、アメリカの覇権体制より、その前のイギリスの覇権体制に似ている。・・・第一次大戦までの世界は、イギリスがフランスやドイツなど列強を誘って世界を分割して植民地支配し、イギリスが他の列強より少しだけ秀でる、多極型を取り入れた隠然覇権体制だった。(P214)
●日本は、自国の金融界に問題がないのに「お上」であるアメリカを救うため、自滅的とわかっているQEを進んで急拡大している。自滅的なバブル拡大を、軽信的な国民が「経済成長の再生策」だと思い込んでいる。かつて天皇陛下万歳を叫んで集団自決したように、お上であるアメリカを救うためアベノミクスで集団自決しようとしている、とも言える。(P247)
●ロシアやサウジが原油安の策略を開始したのを皮切りに、露サウジなど新興市場諸国とアメリカとの金融世界大戦が勃発している。サウジ主導のOPECが11月末の総会で原油安を放置することを決めたことが、アメリカに対する宣戦布告であり、金融大戦の勃発時期だった。日本は、日銀のQEがドルやアメリカの債券市場を救済しており、すでにアメリカの側に立って金融大戦に参戦している。/この大戦は、ロシアとアメリカのどちらかが潰れるまで続きそうだ。・・・今の中国の立場は、二度の大戦で当初中立を保ってきたアメリカが参戦したことで大戦の勝敗が転換したのと似ている。(P253)