とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ハリルホジッチ思考

 ハリルホジッチをよく知る、またはしっかりと取材をしたジャーナリストたちによるハリルホジッチの紹介と分析記事のオムニバス。筆者はサッカーライターの河治良幸、オシム監督の通訳を務めた千田善、フランス在住歴の長い翻訳家・サッカーライターの結城麻里、クロアチアや辺境国関係の取材が多いライターの長束恭行、さらにサッカーライターの籠信明と吉崎エイジーニョ、そして戦術分析に関する著書で評価が高い西部謙司の7人。
 ボスニア人としての苦難の人生を紹介する千田善の「ユーゴスラビアという背景」、フランス時代の紆余曲折を綴る結城麻里の「フランス時代の肖像」、1年だけ務めたディナモ・キエフでの仕事を追う長束恭行の「クロアチアでの1年」、ワールドカップグループリーグでの韓国対アルジェリアのゲームを韓国側の視点で追う「彼をナメていた韓国」、そしてワールドカップ全4試合の戦術を分析する西部謙司の「ワールドカップで輝いたアルジェリアの戦術」。どれもそれぞれ面白い。
 さらに河治良幸は日本でのハリルホジッチを、また籠信明は日本へ来る前のトルコ・トラブゾンスポルでの成果が出なかった半年間やモロッコのラジャ、サウジアラビアのアルイティハド、さらにコートジボワール代表など、他の著者が取り上げなかった時代におけるハリルホジッチの実績と実像に迫る。
 それぞれ視点と対象とするところが違うことで幅と深みのあるハリルホジッチ紹介となっている。そしてこれらの来歴は日本でこそ成功することを予感させる。が、負けが混むようだとマスコミとの確執などが起きる可能性もないわけではない。もちろん日本代表のワールドカップでの勝利と上位進出が最大の希望するところだが、どんな結果になろうと、たとえ途中解任となっても、人間ハリルホジッチに対する興味と関心は大きい。代表の如何に関わらずファンにさせられる。魅力がすごいよ(あ、これは「ゲスの極み乙女。」の最新アルバム名だ)。

ハリルホジッチ思考―成功をもたらす指揮官の流儀

ハリルホジッチ思考―成功をもたらす指揮官の流儀

●プロになる前はオシムは数学者、ハリルホジッチはエンジニアをめざした、2人とも理系なのだが、指導者としてのやり方はかなり違う。・・・ハリルホジッチのほうが厳密で、管理主義的だ。これらは、同じ理系でも、直感力が大切にされる数学と、綿密な準備と段取りが重視される電気工学との違いと考えてみても面白い。2人の個性がこんなところにもあらわれているのだ。(P40)
イスラム国などの問題でイメージが悪くなっている点で、ハリルホジッチの言動によって、イスラム教のイメージが明るくなることを期待している。・・・ハリルホジッチがボスニアで宗教や民族の対立、戦争に反対した人物であることは大事だ。・・・ハリルホジッチ自身は政治問題からは一線を画して、慎重な行動を取ってきた。その彼が「戦争は反対だ。みんなが敗者になる」と身を挺して銃撃戦をやめさせようとしたことの意味は、よくかみしめておくべきだ。平和でなくなれば、サッカーもできなくなってしまうのだから。(P47)
●死を垣間見た者は、一生そのトラウマと付き合わねばならない。闇に囚われてしまう者もあれば、強靭な精神力を汲みつくして闇を拒否し、光へと旅立つ者もある。ハリルホジッチは後者だ。(P81)
アルジェリアがワールドカップで勝ち上がるには、ボール支配力で劣勢になる試合を想定しなければならない一方で、韓国戦のようにどうしても点をとって勝たなければいけない状況も考えておかなければならない。プランAだけで押し通すことは無理である。プランAとBを用意した結果、レギュラーといえるのが3人だけ。その状態でチームを結束させて成立させたところにハリルホジッチ監督の凄みがあるように思う。(P189)