とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる

 昨年冬に発行された中野剛志や藤井聡らによる対談集「グローバリズムが世界を滅ぼす」エマニュエル・トッドも名を連ねていて、痛切なEU批判をしていた。それと同じ論調で、エマニュエル・トッドが独特の世界観からドイツ批判、そしてEUのあり方などを説く。2011年から14年8月までのインタビュー記事を集めたもので、基本的にフランス国内向けの発言だが、トッド氏の世界観・ドイツ観がよく現れており面白い。
 EUは結局、ドイツの抜け駆け的な経済政策によりドイツの独り勝ちの様相にあり、ドイツ経済がヨーロッパの民主主義を破壊しかねないと批判。これに対するフランスの弱腰の外交を重ねて批判する。しかしこの要因としてゲルマン民族の家族構成と社会文化性があると指摘する点がトッドらしい。「『財政規律の重視』はドイツの病理」なんて小見出しまである。そしてそれらは結局、1%の富裕層が99%の庶民から富を収奪する構造であり、各国政府はそうした富裕層の企みにまんまと乗ってそれを助長している。先日のギリシャ危機も思い出すが、「政府債務はデフォルトすべきだ」というトッド氏の主張は痛快でかつ一理ある。
 また、アメリカやロシアに対する見方、ウクライナ問題に対する見解も興味深い。トッド氏によればウクライナ問題でアメリカはドイツに引きずられているというのだが、どうだろうか。安保法案の影響もあり、アメリカの軍事外交に対して嫌悪感を抱く日本人も多い中、トッド氏はアメリカが弱くなったと庇い、本当に怖いのは「ドイツ帝国」だと指摘する。このあたりはかなり雑駁な議論であり、どこまで信じていいのかわからないが、フランスからはまた世界が違って見えるのだろう。安保法案もトッド氏からはひょっとしたら前向きの評価が聞かれるのかもしれない。
 いずれにせよ世界の見方はいろいろあると改めて思い知らされる。基本的に私はエマニュエル・トッドを評価しているし、今後もその言動を注目していきたい。トッド氏はピケティ氏を高く評価している。基本的に格差を批判する99%の側の知識人だ。

●西洋はたしかに世界で圧倒的に支配的だが、それと裏腹に今日、そのさまざまな部分において不安に駆られ、煩悶し、病んでいる。財政危機、所得の低迷ないし低下、経済格差の拡大、将来展望の不在、そして大陸ヨーロッパにおいては少子化など、いろいろな問題がある。/イデオロギーの側面から見ると、ロシア脅威論はまずスケープゴード探しのように、もっといえば、西側で最小限の一体感を保つために必要な敵のでっち上げのように見える。EUはもともと、ソ連に対抗して生まれた。ロシアというライバルなしでは済まないのだ。(P21)
●政府への貸し付けは、カール・マルクスが見抜いたとおり、富裕層の持つ金の安全化だ。政府債務は民間金融機関の発明なのだ。/緊縮、すなわち「政府債務を立て直す」というやつは、国家を私的利益に奉仕する立場に拘束し、いつの日か不可避的にやらなければならない唯一のことをできないようにすることだよ。やらなければならないこととは、借金のデフォルトさ。支払いを拒否することだよ。(P131)
●ドイツはグローバリゼーションに対して特殊なやり方で適応しました。部品製造を部分的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に安い労働力を利用したのです。/国内では競争的なディスインフレ政策を採り、給与総額を抑制しました。・・・ドイツはこうして・・・社会文化的要因ゆえに賃金抑制策など考えられないユーロ圏の他の国々に対して、競争上有利な立場を獲得しました。・・・ヨーロッパのリアルな問題はユーロ圏の内部の貿易赤字です。(P151)
ギリシャの国家が会計をごまかすのを助けたゴールドマン・サックスは高利貸しのような振る舞いをしました。今、人びとがギリシャ人を「助ける」と言っていますが、それはお金を脅し取られる立場に彼らを留め置くということです。ユーロ圏の危機を創り出したのは基本的に、借り手の呑気さではなく、貸し手の攻撃的な態度です。(P184)
自由貿易は諸国民間の穏やかな商取引であるかのように語られますが、実際にはすべての国のすべての国に対する経済戦争の布告なのです。自由貿易はあのジャングル状態、今ヨーロッパを破壊しつつある力関係を生み出します。そして、国々をそれぞれの経済状況によって格付けする階層秩序に行き着いてしまいます。(P217)