とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評issue09

 今号のフットボール批評の特集テーマは「『サッカーはつまらない』なんて誰が言った?」。巻頭の西部謙司の「サッカーは『つまらない』のか?」は、勝利至上主義がサッカーの娯楽性や芸術性をわからなくさせたと批判する。冒頭で語られる1998年W杯でのグループリーグ、モロッコ対スコットランドにおけるモロッコの悲劇が興味を惹く。続くサイモン・マロックによる2編はアイルランドウェールズにおけるサッカー愛が紹介されている。こちらも非常に興味深い。サッカーが文化になるということはこういうことであり、それらの国では「サッカーがつまらない」なんて言われることはありえない。オリバー・ホルトによる「イングランド人がうだつの上がらないチームに傾倒する理由」もチームへの忠誠心を語る。

 後半では、ギラヴァンツ北九州の“ぶちくらせ”問題やFC岐阜の現状に対する批判的な記事が目を惹く。木村元彦による「クラブライセンス制度の功罪を問う」も上がり続ける要求水準が何をもたらすのかをジェフ千葉唐井直氏やモンテディオ山形の吉村氏へのインタビューを通じて批判する。

 そして現在のJリーグを覆っている雰囲気を戯画的かつ的確に指摘するのが小田嶋隆の「フットボール星人」だ。確かに先日、「FOOT×BRAIN」を見ていたら、堀江貴文や夏井剛らが出演していたが、いずれも同じことを話しており、かつサッカー愛よりも金が優先しているように聞こえた。彼らをアドバイザーに起用したのは、チェアマンである村井氏が自らの考えを補強するためではないかというのは的確な指摘だ。そしてその先に日本サッカーの未来があるようには思えない。少なくとも文化として根付くような未来は。一時の活況も結局はサッカーを「つまらない」ものにしてしまう過程ではないかと危惧する。

 「面白い」と「金儲け」は必ずしも両立しない。そんな当たり前のことを今一度しっかりと思い出す必要がある。その意味でも有意義な特集だった。もっとも掘り起こし深さがまだまだ浅いという印象は否めない。世界のサッカー愛はいかに達成されたのか。そんな単著があれば読んでみたい。

 

フットボール批評issue09

フットボール批評issue09

 

 

○サッカーがビジネス化するとは、価値が金で換算されるということだが、価値にも少なくとも二種類ある。1つはエンターテイメントとしての価値。もう1つは成績。・・・ところが、娯楽性や芸術性は金額がつけにくい。わかりやすいのは成績のほうだ。・・・そこで結果至上主義への傾きが加速していった。・・・ヨーロッパは結果至上主義を40年ぐらい続けているうちに、ファンやメディアも何が良いサッカーなのかわからなくなってきた。ビジネスのサッカーが発展した代償として、審美眼が失われてしまったのだ。最大の魅力であるはずのサッカーのアートがわからなくなった。(P009)

○中国には大きなダイナミズムがある。私が中国に感じるのは、ヨーロッパとも共通する雰囲気だ。/日本は環境が閉じている。フェアプレーを徹底するのはいいが、日本的な強い枠組みの中で規制されている。解放されるのは簡単ではないように思う。そのうえ今日では経済的な制約も加わって、日本サッカーはとてもローカルになっているように感じる。(P050)

○毎年100人前後のJリーガーが首を切られ、何の当てもなく第二の人生に放り出される。・・・しかも彼らのために作ったはずのキャリアサポートセンターも毎年予算を削られ、2012年、ついに廃止に追い込まれてしまった。・・・リーグや協会が免罪符のごとく口にする「Jリーグ、あるいは日本サッカーの発展」という美名のもとで、個々のJリーガーの人生が、あまりにないがしろにされているのではないか。こんなことで、本当に日本のサッカーは強くなるのだろうか。(P101)

Jリーグアドバイザーには、5人の人間が招かれている。/誰もが、驚くほど似た人たちだ。/経歴、人柄、主張において、ほとんど区別が付かない。なんというのか、「グローバリスト」であり、「IT志向」のビジネスマンであり、「新自由主義者」であり「リバタリアン」であり「市場原理主義者」であり「マネタイズ万能思考」の持ち主であり・・・ウェイウェイのビジネスピーポーを5人集めてみましたという感じだ。・・・要するに、昨年の1月以来Jリーグのチェアマンに就任した村井満という人がそういう人で、自分と同じ考えの人間をアドバイザーとして雇用することで自分の考えを補強しにかかっている、と、それだけの話に見える。(P116)