とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本病

 経済学者の金子勝と医学部教授の児玉龍彦の共著。金子の安倍政権批判に児玉の生物医学的知識を動員して日本の過去・現状と未来への処方箋を描く。というもののはずだが、正直、児玉が書いているだろう医学的知識が難しすぎてなかなか理解できない。ベイズ予測やエピゲノムがキーとなる言葉だが、これらについてはおぼろげながらに理解するものの、これを日本の経済に適用することで何が説明されているのかがよく理解できない。結局、金子の安倍政権批判、経済政策批判だけが上滑っている感じがする。

 もちろん金子の批判を否定するわけではない。確かに金子の言うように安倍政権の経済政策は出口のない偽薬に過ぎないと思う。その間に日本経済は、以前よりもさらに毀損し、衰退への道を早めたように感じる。そしてその「行けるところまで行く」政策は、深層で新保守主義とつながっているという指摘も興味深い。

 しかしそれにしても、二人が共著することの効果が伝わってこない。処方箋がどこに書かれていたのか、それすらよくわからない。私の理解力が乏しいのかもしれない。こうして現状が理解できないままいつしか日本は衰退していくのだろうか。沈みゆく船に乗った僕らはどうすればいいのか。ただ金子の描く悲惨な未来像だけが私の心を暗くさせる。

 

 

○1990年代のバブル崩壊以降、銀行の不良債権問題から2011年の福島第一原発事故にいたるまで、経営者も監督官庁の官僚も責任をとらず、当面の契機をもたせるために、ごまかしの政策を次々ととってきた。その間に、日本経済は世界で進む科学技術や産業構造の転換についていけなくなり、国際競争力を落としていった。/失敗の責任者が過去の高度成長の成功体験の追想にひたりながら、安倍政権の下で、従来からの政策を異常なまでの規模に膨らませて、偽薬(ブラセボ)効果を狙って総動員している。偽薬のつもりだった金融緩和拡大と官製相場が、どこまでもやめられない麻薬になり、全身を蝕みつつある。(P9)

○実は、抗生剤が使われているのは人間よりも家畜になっている。それも、治療目的ではなく、予防のために抗生物質が飼料の中に使われている。・・・TPPで食品の輸出入を自由にするというが、抗生物質を「異次元の量的緩和」で使っている国からの食品を大量に入れることになる。(P68)

安倍政権になって経済成長がないまま急激な円安が進んだために、ドル建てでみた日本のGDPは急速に減少している。・・・日本のドル建てGDPは・・・中国の半分以下にまで落ちている・・・ドル建てで見た一人当たりGDPで見ると、・・・かつては三位まで上昇した一人当たりGDPは、2014年には27位まで落ちている。(P136)

○貨幣の信用の背後にある国家の信用を前提に、行けるところまで行く政策は「国家」をどこまで信じられるのか?という究極の問いを呼び起こす――かくて市場原理主義は深いところでナショナリズムと親和性を持つという逆説的結合をとげるのである。それが自由な市場と強い国家の結合からなる新保守主義の深層なのであり、阿部製菓縁の特定秘密保護法や安全保障関係法制定の背景にあるものである。(P146)

○異次元の金融緩和は、「円」の実質価値を目減りさせる。その結果、国民の資産、賃金は減少する。・・・成長なき金融緩和は、多くの国民、多くの地域の、資産と収入を減少させ、貧困に追い込んでいく。その中で、「蜘蛛の糸」を切り捨てた大企業のみが強くなって生き残りをはかっていく。だが、その大企業も・・・「グローバル企業」という名の根無し草となり、成長してくる新興国との競争にあけくれ、儲け先を求めてさまようことになる。「日本衰退」の道である。(P193)