とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ちょっと気になる社会保障

 社会保障制度についてわかりやすく解説した本ということで読み始めたが、読み始めからそのあまりにフレンドリーな筆致に驚いてしまった。そしてそのやわらかい書きぶりの中で、バッサバッサと社会保障をめぐるウソ話を切っていく。日本の社会保障制度の基本的な考え方を解説し、2004年の年金改正で取り入れられた「マクロ経済スライド」により他国がうらやましがる自動調整システムにより安定的に社会保障が行われる仕組みが構築され、しかし将来に向けては、デフレ化でもフル適用するようマクロ経済スライドの仕組みを見直すことなどの改革が必要なことなどが説明されている。

 筆者の権丈氏は社会保障制度の専門家として、社会保障をめぐる国民会議に委員として出席し、積極的な発言を繰り返して日本の制度改革をリードしてきた。一方で、社会保障制度が政争の具とされ、また社会保障制度に対して不安を煽る誤った言動や、それを受けた高校教科書の記述などについては大きく危惧し、この本が書かれたと思われる。社会保障制度が世代格差を作っているのではなくて、将来の高齢者の貧困を防ぐためにも、有効に社会保障制度を活用し、必要な改革を行っていくことを訴えている。

 公的年金は長寿命リスクに対する保険制度だということを改めて認識した。また医療と介護を巡る議論、地域包括ケアに対する医療側からの必要性という点も教えてもらった。扱っている範囲は公的年金に限らず幅広い。

 本文は親しみやすいが簡潔で、多くを巻末にコラム形式で書かれた「知識補給」に委ねており、また本文も国民会議や各種メディアなどに筆者が記述した報告やインタビュー記事を多く引用し、重要な部分はそちらで説明していることが多い。そういう点では、小さい活字までしっかり読まないと、雰囲気だけで、筆者の書いていることは本当かなと思ってしまうかもしれない。筆者自身も、「これぞ、よく売れている年金の本なんかに書かれている『大本営発表』というものじゃないのかぁという感想を持たれるかもしれませんね。『大本営発表』というような言葉を使う学者って、あんまり、いや全くかな、信用しないほうがいいと思いますよ」(P158)なんて書いている。

 日本の社会保障制度は世界的に見ても十分安定的であり、しかし将来に向けて必要な改革は実施していく必要があること。そして社会保障は見通せない将来のためにあるのだから、現時点での損得を考えるのではなく、自分の将来、そして将来世代のための制度として認識する必要があるということを理解した。まずは年金について、退職・転職してもあわてて給付を受けることなく、収入があるうちはそれで生活していこうと思った。でもそんな収入あるのかな。結局、社会保障制度は安定的な社会のための補完システムであり、まずはメインシステムである労働市場がしっかりと機能していることが重要だ。そういう意味では、高齢者でも働ける雇用の場の確保って大事ですね。文句言わず働きますので、みなさんよろしくお願いします。いや、みんなしてそんな社会づくりに取り組みましょう。

 

ちょっと気になる社会保障

ちょっと気になる社会保障

 

 

○社会全体で就業者1人が何人の非就業者を支えるかと見ると、1人程度でこの数十年間ほぼ安定しており、将来もあまり変わらない。実態としては、若い世代の将来の負担が何倍にもなるわけではない」と答えています。さらには、「女性や高齢者が働きやすい環境を整え、支え手に回る人を増やすことで、少子高齢社会の荒波も何とか乗り切れることがわかる。少子高齢化に耐えうる仕組みに転換するには、雇用の見直しこそが最重要課題」とも。(P3)

○これら高校の教科書には、先進国の公的年金は日本のみならず賦課方式で運営されていること・・・などはどこにも記述されていません。/日本の公的年金は、基本、賦課方式です。しかし、他国と比べて変動の大きい人口構成に対応するバッファーとして、おおよそ4年分の給付を賄うことができる積立金を持っています。・・・これに比べて、フランスは積立金をほとんど持っておらず、ドイツは年金給付の2ヶ月分くらい・・・という状況です。(P27)

社会保障が主に果たす中間層の助け合いによる中間層の保護育成は、経済面でもプラスの効果を持ちます。・・・一国の経済政策の中では、広く厚い層をなす顧客、つまりは分厚い中間層は意図的に創出し、その存在を守っていかなければならない・・・市場ばかりに依存した所得の分配は、どうしても大きな格差をもたらしてしまい、中間層が抜け落ちた社会を作ることになってしまいます。・・・そうした市場の欠陥を民主主義により補整しているわけでして、そうした修正手段のひとつが社会保障という制度になります。(P37)

○この10年、年金まわりの政治は無茶苦茶でした。そして当時、つまり政争の具としての年金への不信が広まっていた時、そのムードにのって政治家達と一緒になって年金不信を煽っては抜本改革を売り歩いていた研究者たちの話しも疑ってかかってもらう必要もあるかと思います。/その上で、いま、公的年金に必要な改革の話をしますと、それは公的年金の「防貧機能」の強化―それはなによりも、将来の給付水準の底上げです。(P151)

○もし、余命幾ばくと宣告されてない人が、当面の生活費を工面する方法があるのならば、可能な限り遅く受け取りはじめることをお勧めします。70歳で受給しはじめる年金は、60歳で受給できる年金額の約2倍になり、それを亡くなるまで受け取ることができるわけです。/そしてもし・・・69歳で亡くなってしまったとしても・・・少なくともそれまでは、自分は70歳以降も生活に困ることがないという安心感は得られていると思いますし、保険というものはそういう安心感を与えるのが大きな役割なわけです。(P187)