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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本語の謎を解く

 筆者が非常勤講師を務める高校で「言語について疑問に思うことを挙げよ」という課題に対して寄せられた多くの疑問に対して一つ一つ答えていくことを通じ、日本語や言語の成り立ちについて説明していく。こう書くとQA形式のトリビアを紹介する本という感じがするが、そして確かにトリビア的な回答もあるが、英語や中国語などの他言語と比較して考察を進めることで、全体として言語とは何か、さらに欧米中心の学問や文化に対しても平衡感を持った視野が開けてくる。

 例えば次の一節

○英語のjapanは、中国の南方の方言音に由来しているとされています。「日」には「ジツ」という音読みがあることからわかる通り、「日本」は中国南方では「ジッパン」というような音で発音されていたと考えられます。それがマルコ・ポーロの『東方見聞録』ではジパングとされ、西洋に広まりました。(P65)

 は、私は知らなかったし、興味深いトリビアだ。一方で、「は」と「が」の使い方や活用形・語順などを検討していく中で、日本語が必ずしも世界の中で特殊な言語ではないことを示す。第9章「同じ意味でも違う構文があるのはなぜか」では、「違う構文なのは伝えたい事柄が違うから」と説明し、意味が同じなら同じでしょ、という欧米流の論理学に疑義を呈する。その他、時間表現に対する考察なども興味深い。

 筆者はまだ若干34歳。現在は慶應義塾大学や付属高校の非常勤講師をされているようだが、こうした研究者が出てくるというのは非常に心強いし、それなりのポストが用意できないというのがもどかしい。もっとも高校生との交流の中で本書が生まれたとすれば、その環境を十分活かしているとも言える。いずれにせよ、今後のさらなる活躍を期待したい。

 

日本語の謎を解く: 最新言語学Q&A (新潮選書)

日本語の謎を解く: 最新言語学Q&A (新潮選書)

 

 

○「正しい日本語」とは、ある時点の日本語の姿を整理して、それを人為的に規範にしたものに過ぎません。ですが、「規範=正しい」という意識が私たちの中には確実にありますし、それが「正しいものは美しい」という価値観にもつながっていきます。美しい言葉遣いだから正しいではなくて、正しいと決めたから美しいと感じているだけなのです。(P99)

○英語は原則として物事を客観的な視点から語る構造を持つ言語なので、本人を主体として感情を表現したい場合、受身文を使わざるをえないことが多いのです。対して、日本語はもともと客観的な視点に拘りがない言語なので、そのまま本人を主体とした能動文で感情を表現できます。(P161)

○日本語の場合には英文法のような「主語-動詞」を中心とした構文よりも、「は」を使用して主題を取り立てる構文が発達しています。このため、日本語は主題卓越型の言語とも呼ばれています。古文で学習した係助詞も、本質的にはこの「は」に類するものなのです。(P172)

○SVOとSOVという語順こそが日本語の根本的な違いと見なす人がいるのですが、必ずしもそうだとは言い切れません。・・・ヨーロッパの言語でも・・・スペイン語やイタリア語などでは入れ替わりますし、ロシア語はもっと自由に語順を組み替えます。ロシア語は名詞が格変化するため、語順を入れ替えても意味が変わってしまうことがないからです。たいていは、話題になっていることが前に来て、新しい情報が後ろに来ます。(P194)

○欧米的な学問に根強く見られるのが、欧米の論理学=絶対的真理と見なす立場です。論理学というのは、言語を超えた真理を追究しているように見えますが、人間は言語を除いて思考を行うことが不可能であるため、いつも自分の使っている言語に支配されてしまいます。その結果、自分たちが使っている言語に見られる特徴を拡大解釈して論理=絶対的真理と見なしてしまうことがしばしばみられます。(P256)