とんま天狗は雲の上

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イギリスのEU離脱を考える

 先週末、イギリスでEU離脱の是非を問う国民投票があり、離脱派が過半数を占めて世界中に衝撃が走った。もっとも投票前には一時、離脱派優勢というニュースが流れ、その後で残留派の国会議員が射殺される事件があり、これで残留派が盛り返したという報道があり、そして最終的には離脱派が勝利した。

 離脱派が優勢というニュースが流れ出した6月初旬頃から日本では、イギリスがEUを離脱すると大変なことになるという報道が多く流されたが、そのいずれもが経済的な混乱を指摘するもので、株価の下落や為替が円高になるという指摘は、実際にそのとおりだったわけだが、それが日本の庶民の生活に直接的にどう影響するのか疑問だった。

 私事として言えば、「株なんて持ってないから下落しても関係ない」し、「輸出企業の業績が悪化するから、巡り巡って庶民にも影響が出てくる」という話にも、「これまで好調だったからと言って、トリクルダウンなんてなかった」と反論したい気分。もちろん経済的な影響は少なからず国民の財布にも及ぶのだろうが、アベノミクスとイギリスのEU離脱ではどちらの方が日本経済への影響が大きいのだろうか。

 国民投票の結果が報道された直後、各国の首脳等から様々なコメントが出された。ドイツやフランスはEUメンバーだから影響を懸念する発言があって当然だが、中国報道官からは「国民の意思を尊重する」というコメント、アメリカのオバマ大統領からも比較的落ち着いたコメントだったが、日本だけは「国民の意思を尊重するが」と付け足し的な前置きの後、「経済的影響が心配だ」という趣旨の発言が出され、「やはり経済か」と思った。また、フランスや西欧諸国の極右政党からは離脱歓迎のコメントが出され、日本のTVもそれを報じて危機感を煽っていた。

 でも「何か違う」と思う。イギリス国民が選択したのは、イギリスのアイデンティティであり、グローバル化への批判ではなかったのか。経済がグローバル化する中で、固有の文化や価値が消されていくことへの危惧ではなかったのか。そして固有の経済力でも十分世界に太刀打ちできると考えたイングランド離脱派が多く、経済的に危惧を抱えるスコットランドなどで残留派が多くなっている。すなわち、グローバル化する世界の中でEU圏内は結束しようと統一化を強めるEUに対して、イギリスが反発し、さらにイギリスの中では、よりローカルな地方部がイングランドに対して反発するという入れ子の構造。それを単なる経済的な混乱として捉えるのはあまりに単視眼的な気がする。

 一方、日本ではTPPを推進するなどグローバル化へ期待をかけているように見える。しかしそれは一部の輸出企業の利益に直結していることから、地方や一部弱者には反発の声が挙がる。まさに今、参議院選挙の真っ只中だが、これまでアベノミクス一辺倒で経済対策を主張してきた自民党が今週になって急遽、憲法改正を表に出してきたのは、イギリスの国民投票の結果を受けて、アイデンティティ重視の方向へ舵を切ったということかもしれない。

 しかし改憲こそが日本のアイデンティティを救うと考えるのも短絡的だ。自民党は、経済のグローバル化改憲によるローカル化という矛盾する二つの政策を同時に携え、その時々で都合のよい方を主張してきた。その真意は「政局与党から離れたくない」というものかもしれないが、野党がこうした自民党の鵺のような戦略に対応し切れていないように見える。

 個人的には、グローバルな中で地方や個人の固有のアイデンティティや価値を認める、グローカルな世界になることを期待するが、どうすればそうなるのかはよくわからない。今回のイギリスの国民投票の結果は、日本にとって経済的な意味だけではなく、選挙結果にも影響を与えそうだ。本当はグローバルとローカルの関係といった世界観、社会のあり方にこそ一石を投じたはずだが、そこまで考える人は少ない。