とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

大きな鳥にさらわれないように

 人類が滅亡への道を辿り、人工知能とクローン技術により新たな人類(のような人々)が生きている超未来を舞台としたSF小説。14の短い小説が集まり、次第にその全貌が見えてくる。長編小説というより連作集と言う感じ。最終章ではレマとエリという二人の少女が新たな人類を創造していく。人類とはいったい何なのか?

 読みながら「神様2011」を思い起こした。神とは何か。人間とは何か。

大きな鳥にさらわれないよう

大きな鳥にさらわれないよう

 

 

○「愛する者を亡くしたんだな」/男は言った。子供はこっくりした。/「セックスを、するか?」/男は聞いた。子供は少し迷ったが、ええ、と言った。男のセックスはていねいで懇切だった。子供は愉しんだ。/(セックスは、干渉かしら)子供は一瞬思ったけれど、かまわないと思った。・・・「これしか女をなぐさめる方法を知らないんだ」/終わってから、男は言った。子供は笑った。いいなぐさめかただったわ。ありがとう。(P68)

○それまでの人類の歴史は、俺たちに自信をなくさせるのに充分なほど支離滅裂なものだった。そして、その誤謬を知りながら、誰も決定的な修正をおこなおうとはしなかった。しようと試みた者もあったけれど、大海にスポイトで水を垂らすほどの効果しか得られなかった。(P104)

○ほんとうに怖いのは、人間だ。・・・町に近づいてくると、体の中のどこかが、ぴんと張りつめる。/荒野ではただ激しく単調に吹きつけてきていた風が、町のそばでは、さまざまな匂いや音を帯びるようになる。・・・町の存在を感じてから、実際に町に入るまでに、わたしは何日もの時間を必要とする。人間たちの複雑な思惑のかたちづくる、目に見えない渦巻きのような熱に、体を慣らすために。(P134)

○人類とか世界とかは、つまりおれたちの集まりなんだろう。おれと、おれと、おれと、あんたと、あんたと、あんたの。人類のことを心配するんだとしたら、その中の自分のことだけ、心配してりゃ、いいじゃない。それだけじゃ足りないっていうんなら、そうだなあ、あとは自分が直接知っている人のことを心配するのは、まあいいよね。/で、自分と、自分の知ってる奴らが楽しくやってたら、それでじゅうぶんじゃない、それ以上のことになんて、手がまわらないし、手がまわると思ってるとしたら、そりゃちっとばかり、えらそうなんじゃない?(P170)

○兄たちも、父も、母も、誰もが、他人に自分のことを理解してもらいたがっていた。でも、あたしがかれらのことを真に理解した時には、かれらの全員が、理解したあたしを憎しみはじめた。知られる、ということは、支配される、ということと同じなのだと、かれらは感じるのだ。(P240)